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□早鐘の如く
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私の初恋は物心ついたばかりの頃だった。

両親が死んで、私と妹が取り残された。

両親が死んだ。
同時に。
他殺なのか心中なのか。
そんなことはどうでもよかった。
あの人たちがどうなろうと知ったこっちゃない。
親らしいことなんて一つもしてくれなかったのだから。

私の両親は遺伝子だった。
軍の天才科学者と、最強と呼ばれた兵士の子供。
完全な政略結婚だった。
優秀な遺伝子を組み合わせれば、より優秀なモノができる。
ただ、それだけのことだった。

私達を引き取ろうとする親戚なんて一人だっていなかった。
まだ生まれたばかりの妹を抱きながら、私はそいつらただ冷めた目で見つめていた。

ただ、冷淡に、
今にも泣きそうな顔をしながら。

そんな私を抱きしめた人がいた。

母の後輩だった人だ。
両親が死んだと聞いて、真っ先に駆けつけてきた。

その人は、私を見るなり、目に涙を浮かべ、とても悲しそうな、どこか嬉しそうな顔をした。
そして私を抱きしめた。

私の母の名前を呼びながら。

「もう、大丈夫。今度こそ僕のものだ。」

嬉しかった。
安心した。
私は、この時初めて人に必要とされたのだ。

私は必要だったんだ。
私はきっと、この人に必要とされて生まれてきたんだ。

そう思うと、涙があふれた。

私はその人の腕の中で泣きながら、早鐘の如く鳴る心臓がなんなのかを考えていた。


早鐘の如く


「…と、まあこれが、私と大佐の運命的な美しすぎる出会いかしらね。」
「……そうですか。」

この人は頭がおかしい。
今の話のどこが美しい出会いなのか。
この人の両親を殺したのは大佐だと分かりきっているではないか。

「…素敵な出会いですね。少佐と大佐の未来は明るく輝いてますよ。」
「あたりまえでしょ。貴方も分かってるじゃない、中尉。」

俺が言った皮肉でさえも褒め言葉に変換する少佐は本当に大佐が好きなのだと思う。
俺が少佐を想う気持ちの数百倍は優に超える重すぎる大佐への想いを毎日語っている。

この人は大佐の話をする時だけは、いつもは顔面表情筋が役目を果たしていない顔に、見とれるような笑顔を咲かせる。

俺はその笑顔に少しの嫉妬心を持ちながら、早鐘の如く心臓を高鳴らせるのだ。



  

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