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□瓶詰めの恋心
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スフォリアはいつものように私の処にやって来た。
ただいつもと違うのは彼女が質素な瓶を抱えていたことだった。
大切そうに抱えたそれは瓶詰めにされた心臓だった。
瓶の中の心臓は穏やかに波打ち、ありもしない血液を何処かへ送っていた。

彼女はいつものように私の膝の上の特等席で私の顔を見上げるように座った。


「ヴィッツィーニにあげる。」

彼女は瓶を渡して膝立ちになると、私の頭を抱きよせた。
「私の1番大切なもの。」
仮面越しに当たった彼女の胸からは心臓の鼓動は聞こえなかった。
その代わりポタポタと涙の落ちる音が聞こえた。

そのまま彼女は冷たく動かなくなった。

慌てて息を確かめると、確かに息はあったので眠っているだけだと思い安堵した。
けれど胸に耳を当てても不思議と鼓動は聞こえなかった。

部屋まで運びベッドに寝かせて毛布を掛けた。

「ありがとうございますスフォリア。」

仮面越しにキスをしながら言った言葉は死んだように眠る彼女には届かなかった様だ。

翌日彼女は何もなかったかのように朝の挨拶を言いにきた。

瓶の中の心臓の鼓動は日に日に強くなって行った。


「あの心臓よくできてますよね。今にも動きだしそうだ。」
刺繍屋の青年が言った。

私が見る心臓は激しく波打っているのに。
どうにも心臓は私を見ると動き出すようで。

いったいどんな仕組みになっているのか気になったが瓶の蓋を決して開けることはなかった。
開けてしまったら取り返しのしかないような気がして。
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