紅の十字架

□休息の間の話
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「……ピアノの部屋に?」

「クロス元帥からの頼みでね。恭弥くんが、弾くだろうと」

コムイに呼び出されるなり、【方舟のピアノの部屋にいくといい】、と言われたがクロスからの伝言だと言われて腑に落ちた雲雀
癪だけれどもやはりあの部屋に行きたいという気持ちは察していたようで少し不機嫌な顔をしながらも少しだけ間を置いて返答する

「少しだけ、1人にして欲しい」

「勿論。ただ時間が経ちすぎると神田くんが来ちゃうかもね」

「ほどほどにするよ」




――そして坊やは眠りについた……


息衝く灰の中の炎


ひとつふたつと


浮かぶふくらみ


愛しい横顔


大地に垂るる幾千の夢


銀の瞳のゆらぐ夜に生まれおちた輝くおまえ


幾億の年月がいくつ祈りを土へ還しても



「ワタシは 祈り続ける」──……


「(……ネア……14番目……方舟で聞いたこの唄……なんで……。この記憶は一体)
気持ち悪い……自分が自分じゃないみたい
今に始まったことじゃないのに……。僕は」

ーーリリィ、君は忘れないで
記憶は大切なものだから

「記憶……」

「やはりここだったか」

「ユウ……」

「部屋にいなかったからな。1人がいいなら後でまた来るが」

神田の素っ気ない気遣いに対して雲雀はふるふると首を横に振る。少しだけ一人でいたことにより落ち着いたのか目の前に立つ神田を見上げながら少し寂しそうに微笑んだ

「(気遣いはとても嬉しい。でも、今はそれよりも)
隣に座って欲しい」

「ん」

「……ずっと詩が流れてるんだ。アレンの歌ったあの、子守唄が」

「モヤシの……?あの歌か?」

「うん。朧気に歌詞が残ってる。多分、欠落している記憶か、躯の記憶だと思う……。自分が自分じゃないような気がして、気持ち悪い」

「お前は、雲雀恭弥だ。イノセンスも使えてる。ならノアなんかじゃねぇし、クソッタレなイノセンスが適合者って認めたんだ」

「!」

「それに、お前が何者だろうと俺が隣に置くと決めたのはお前だけだ
それ以外のやつに渡すつもりなんて微塵もねぇ」

「ありがとう」

「あぁ」

「…………。久々に夢を見た
アルマがいた。……アルマを壊して自分も殺す自分がいた。……でも、それはユウじゃない、ユウの記憶で、それも僕自身じゃないってわかってる。でも、ユウが生きてて、よかった……出会えて、よかった」

「そうかよ」

ピアノの椅子に半分ずつ腰掛けて、笑いながらそっぽ向く神田の手を恐る恐る雲雀が握り、またひとつ微笑む
方舟でカルテ=フォーロによって神田に知られてしまった秘密の一つだったが、それでも態度ひとつ変えずにそばに居ることに対して雲雀は感謝をしながらピアノの黒鍵と白鍵を一瞥したあと体温を感じるように目を閉じた



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