短編集
□An Enduring Tomorrow
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「貴様はなぜ、そこまでしてテニスをしようとする」
ふと目が覚めて隣にいた雲雀の姿がない。洞窟から出ると雲雀とあの飲んだくれコーチが外で話しとるぜよ…
「は?」
「貴様の体はもう限界が近いだろう。そこまでやる必要があるものか。まだ貴様は若い」
限界が近い?何のことナリ……もう少し聞いてみるか
「三船コーチ、どういう意味か分かり兼ねますが」
「貴様は難病を抱えておる。薬物療法とリハビリを行わないとただ進行していくばかりだ、そうだろう?」
「っ、……気づいていらっしゃったんですね」
恭弥が否定しなかった。難病?何のことぜよ。恭弥は俺たちとずっと練習して、この合宿にも合流して、そんな恭弥が難病?ハッ、笑わせる話じゃき
「貴様のプレイスタイルを見ていればわかる
貴様の兄も倒れたと聞く。それが原因か?」
「…確かにそうかもしれません。……このことはどうか内密「意味がわからないぜよ……」
「に……仁王…」
気づけば恭弥の声を遮っていた。しばらく呆然と立っていた恭弥に足が一歩、また一歩と恭弥の方へと近づいてそいつの肩を掴んだ
「何故、そんな大事なこと黙ってたぜよッ!!」
「…………」
「俺たちには話す必要なんてなかったか。なぁ、恭弥…そんなに俺は、俺たちはおまんにとってどうでもいい存在ナリか…!」
自分でも驚くくらい大声を出していた。恭弥は答えてくれない、答えられないのか答えたくないのか。恭弥の考えてることがいつもなら分かるはずなのに今回のは全然わからん
何で言ってくれないのか、そんなことを見せたくないからという強がりなのか、言ってくれないから全然わからないぜよ
恭弥の肩へと顔を埋めると俺の頭を撫でるように雲雀は手を回してくれる。いつものことだ。抱きついて、まるで母親のように包み込んでくる。けど、今はそんなの必要なか。恭弥が、幸村と同じだったら、俺たちの、俺の前から消えるんじゃないかと怖くてたまらん。だから否定してくれ
「(病気なんかなってないって一言言ってくれるだけでいいんじゃ。頼む、おまんが消えるなんて信じたくなか)」
「……ごめん…」
「二人で勝手にしろ。死んでも俺はしらねぇからな」
飲んだくれコーチの声が遠く聞こえる。その場から離れていったのじゃろうな
恭弥が、否定しなかった、好いとうやつが、目の前から消える…
そんなのーーーー恭弥のペテンに決まっとる。恭弥はこれからも俺たちとテニスをするんじゃ、笑うんじゃ
喜んだり泣いたり、赤也や柳生を弄ってやるんじゃ。次は真田がいいかのう
幸村にイリュージョンして真田で遊びたいぜよ
「おまんが俺をペテンにかけるなんて早いぜよ……っ」
「仁王……言っておくけど、君達を信用していないわけじゃない
精市達には黙っておいて欲しい。くどいようだけど、これは信用していないからじゃないよ
話す必要がないわけでもない、これだけはわかって欲しい
今、この合宿に余計な雑念を入れたくないんだよ。精市は漸くテニスを楽しもうとしているし、真田と赤也は高みを目指してる。柳もチームのことを考えてくれているし、柳生もここで新たなことを学ぼうとしている上にブン太もあと少しで守備も出来上がる、ジャッカルも僕のことを気にしてくれている
だからこそ、みんなの邪魔をしたくない」
「俺は、恭弥が幸村みたいに倒れるのが怖いんじゃ……!消えんといて…!」
絶対今の顔ぐしゃぐしゃじゃ。こんなの真田や参謀には見せられん
「この合宿が終わったら、治療受けるつもり。最近体が重いから、リハビリもしながらだけど、僕は戻ってくる
約束するよ」
「……破ったら許さん。そうじゃのう…また考えておくナリ
ああ、そうじゃ。今年の誕生日とクリスマス、それから年越しは俺に付き合ってもらうぜよ」
少しでも思い出が欲しい、過ごした記憶が欲しい
涙を拭いながら恭弥へと笑えば恭弥も笑い返してくれる
「ぷっ、何それ。一人を好む仁王がそんなこと言うなんて珍しい」
「恭弥だから言っとるんじゃ。おまんを好いとうからのぉ」
「ふーん…僕といたって幸せになれないよ?」
「もう幸せぜよ。恭弥が近くにおるから俺は、ここにおるんじゃ」
「ペテン師に言われてもねぇ」
「そんなペテン師に付き合う物好きは恭弥くらいぜよ」
「違いないね」
その笑顔が大好きだから、消したくない。消えて欲しくない
おまんがいるから、この時間も苦痛じゃないと思えてくる
「消えるな、恭弥……」
恭弥がいることを実感する為に、首筋に歯を立てて印を付けた。薄らと流れる血を舐め取ると恭弥がキッと睨みつけてきた
「っ、仁王、なにして…」
「お守りじゃ。印を付けとかんと取られるじゃろ?」
「……勝手にしなよ」
恭弥が俺から離れるとそのまま洞窟へと戻ってしまった
やりすぎたかのう……。真田と参謀に怒られそうじゃし、寝ようかの
「(明日も変わらぬ恭弥と会えるように…)」
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