すべてが終わってしまう前に
□限界を超えるのが、試練だ
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「……同点、か」
「雲雀!」
「席、空いてるみたいだから座らせてもらうよ」
「別にいいけど…ってか、何でここに?」
火神の右隣の席に腰を下ろした雲雀は黄瀬を一瞥した
「雲雀君は黄瀬君の出る試合はほとんど見にいきますからね」
「そ、…黄瀬の成長は僕も肩入れしてるんだよ。だからさ、この試合だけは絶対に見ないといけないんだよ
黄瀬の壁はここだから」
「雲雀じゃないか」
「やぁ、木吉。そっか、君……」
「鉄平、雲雀君を知ってるの?」
「あぁ。中学の頃に何度か試合をしたからな
雲雀の現役は凄かったぞー?」
「褒めても何も出ないよ」
「つれないなぁ。雲雀、お前はこの試合、どっちが勝つと思う?」
「…はっきりとは分からないよ。どっちのエースは負けず嫌いだからね
でも、黄瀬が青峰に勝てるとしたら……克服しなければならない。彼が青峰に感じているものを諦めるしかない。昨日の電話の意味に気づけばいいけど」
「そうか」
「…………」
【タイムアウト、終了です】
静かに目を閉じた雲雀の脳裏に浮かぶのは中学時代の一コマだった
…
「雲雀、アイツを誘ったのは何故だ?そこまでお前、アイツを気に入ってるのか?」
パチッ、と将棋の駒を打ちながら雲雀と対戦していた赤司が訊ねた
「アイツ…?あぁ、黄瀬?」
「そうだ」
「彼は出来るよ。他のメンバーや僕みたいに勝利の二文字に執着心はまだ酷くないけど、彼は彼にしか出来ないことがある
一ヶ月足らずで一軍入りするかと思っていたけど、二週間で入っちゃったし、僕の見込み以上かもね」
「……今度二軍の練習試合があるだろう?雲雀、お前ならそこに一軍の誰を推薦する?」
「…僕なら、君の推薦した黒子と、自分のすることをまだ把握できてない黄瀬だね」
「考えることは同じか。……王手」
「だね。…はぁ、また負けか。君には敵わないや」
「当然だ、俺にとって勝利とは呼吸も同然だからな。ところで、三軍の練習試合にお前を推薦しようと思うんだが、どうする?」
「一人でいいよ。それ以外は練習させておけばいいから」
「わかった。そうしよう」
……
「青峰、全開…!!止まらねー」
「!っ、」
「(あー、クソッ、やっぱメチャクチャ…カッケーなぁ…
人にはマネできない、唯一絶対のスタイル、この人や恭に憧れて俺はバスケを始めたんだ。普通のプレイは見ればすぐにできるのに、この人のは何度やってもできなかった
けど、わかってたんだ、本当は。なぜ、できないか
ーー憧れてしまえば、越えられない)」
「雲雀君、黄瀬君とどんな会話をしたのか聞いていいですか?」
「いいよ。黄瀬は僕に青峰に勝ちたいと言ってきた。黄瀬をバスケに誘ったのは僕だけど、憧れたのは青峰。今までも変わらない
誰でも憧れはある。僕も憧れているものはあるからね。それに勝ちたいと思うのも誰でも一緒
青峰に勝つには、憧れを棄てなきゃならない。だから、僕は一言だけ黄瀬に伝えた……
憧れるのにも限界がある。それを超えるのが、君(黄瀬)の試練だ、と」
「(恭に言われてケジメをつけた。それに、恭と約束した。勝ちたいと願いつつ心の底では負けてほしくないと願うから。だから……)
憧れるのは、もう…やめる」
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