すべてが終わってしまう前に
□頭を冷やさなきゃ
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「ん、あれ?涼太…?」
「きょ、恭!?こんな所で会うなんて偶然ッスね!」
「うん。涼太、元気?」
「当たり前、って言いたいとこスけど、恭がいなくてちょっぴり淋しかったッス」
しょぼん、と項垂れる黄瀬の背後には犬耳が見えていた雲雀だった
「あ、今って暇スか?」
「うーん、今から買い出しの予定だったから暇って言ったら暇かな」
「今から誠凛に行こうと思ってたんスよ。一緒に行かないスか?」
「誠凛?ああ、確か黒子がいるんだっけ。じゃ、行こうかな」
「決まりッスね!」
雲雀と黄瀬は並んで誠凛の場所へと歩みを進める
「あーもー……こんなつもりじゃなかったんだけど…」
「これだからモデルと歩くのは嫌なんだよね。僕まで巻き込まれるし…」
ギャラリーに囲まれる中、はぁ、とわざとらしいため息をつく雲雀の腕には黄瀬の腕ががっちりと組まれ、逃げられずにいた
とは言え、自身も一般人ではない為にサインはしていたが…
「仕方ないじゃないッスかー。モデルになればいいって言ったのは雲雀っちッスよー?
それに雲雀っちも何だかんだ言ってしてるじゃないスか」
「はいはい、早く済ませなよ。僕は終わったから」
「…アイツは……」
「…!(【キセキの世代】の…なんでここに…!?)」
「……お久しぶりです」
「久しぶり、黒子」
「黄瀬涼太!!」
「ひさしぶり…スイマセンマジであの…えーと…てゆーか5分待ってもらっていいスか?」
サイン会が終わりステージから降りた黄瀬とステージに座り膝を組んでいる雲雀は誠凛を目の前に微笑んだ
「…!!(こいつが…!!)」
「な、なんでここに!?」
「いやー次の相手が誠凛って聞いて黒子っちが入ったの思い出したんで…雲雀っちと一緒に挨拶に来たんスよ!黒子っちとは中学の時一番仲が良かったしね!」
「…別にフツーでしたけど」
「ヒドッ!!」
「…………」
そっけない黒子に黄瀬は突っ込む。が、その隣からじーっと見つめる雲雀の視線に気づいて黄瀬は慌てた
「じょ、冗談スよ!!一番仲いいのは雲雀っちスー!!」
「どーだか……」
「本当ッスよ!幼馴染なのに酷くないスか!?」
「黄瀬が黒子黒子って煩いからでしょ!」
「「「(痴話喧嘩みたいだな…)」」」
「すげーガッツリ特集されてる…【中学二年からバスケを始めるも恵まれた体格とセンスで瞬く間に強豪・帝光でレギュラー入り。他の4人と比べると経験値の浅さはあるが急成長を続けるオールラウンダー】…って」
「中二から!?」
「いやあの…大げさなんスよ!その記事ホント!【キセキの世代】なんて呼ばれるのは嬉しいけど、つまりその中でオレは一番下っぱってだけスわー。雲雀っちの方が上手いスしね!だから黒子っちとオレはよくイビられたよなー」
「ボクは別になかったです」
「あれ!?俺だけ!?」
ふと、雲雀と黒子の目が合い雲雀はステージから降りて黒子に近づいた
「雲雀くん……」
「何か言いたげだね」
「……バスケはやっぱりやっていないんですね」
「えっ、と……黒子、そっちは?
歌手の聖さんに似てるけど…」
「雲雀恭弥、元帝光中で並中、現並高の風紀委員長
ちなみに黄瀬とは幼馴染ね
ちなみに、芸名は鈴音聖。これでも歌手をやってます」
バチィ!
「っ!」
突然、黄瀬の方にボールが勢い良く飛んで来たのをすかさず手で止める黄瀬の顔は少し痛みに顔を歪ませた
「った〜ちょ…何!?」
「せっかくの再会中ワリーな、けどせっかく来てアイサツだけもねーだろ。ちょっと相手してくれよイケメン君に黒髪君」
「火神!?」
「火神君!!」
「え〜そんな急に言われても…あーでもキミさっき…」
「僕は遠慮するよ。弱いやつとやりたくないし。黄瀬との1on1を見たいって言うなら話は別だけどね」
フッと挑発的に笑う雲雀に火神は声を荒げそうになるが、少し唸っていた黄瀬が脱いだブレザーを雲雀に投げたことで遮られる
「雲雀っち。ちょっと俺のブレザー持っててくれないスか?」
「…仕方ないね。負けたらコレ、燃やすから」
「酷いっス!!」
「半分冗談だよ。負けたら咬み殺してあげるよ。あと、ついでにネクタイも預かるけど?」
「サンキューッス!雲雀っちが見てるし、負けられないッスね。ま、もともと負けるなんてあり得ないんスけど」
「だろうね」
黄瀬がブレザーと緩めたネクタイを託してから火神君の方を見る
「よしやろっか!いいもん見せてくれたお礼」
「…!」
「…っもう!」
「マズいかもしれません」
「え?」
黒子の思いがけない言葉にリコは声をあげた
しばらくして1対1が始まると黄瀬が素早く動きドリブルを切り返しながら火神を交わしてダンクを決めた
「彼は見たプレイを一瞬で自分のものにする」
「…なっ!?(しかもこれって…模倣とかそんなレベルじゃない!完全に自分のものにしてるなんて!)」
「はい、黄瀬の勝ち」
しかし、火神も負けじとボールへと手を伸ばしてゴールさせまいと試みる
「うおっ火神もスゲェ!!」
「反応した!?」
「がっ…!?」
反応はしたものの、黄瀬の方がキレが良く、パワーもあったことにより、抑える事が出来なかった
「これが…【キセキの世代】…黒子、オマエの友達スゴすぎねぇ!?」
「……あんな人知りません」
「へ?」
「正直さっきまでボクも甘いことを考えてました。でも…数ヶ月会ってないだけなのに…(予想を遙かに超える速さで【キセキの世代】の才能は進化してる!)」
そんな中黄瀬は困った顔をしてから雲雀に目を向けたが、雲雀は興味なさそうにつーん、とそっぽを向いていた
「ん〜…これは…ちょっとな〜
雲雀っちぃ、どうッスか?」
「?」
「どうもこうも…拍子抜けとしか言いようがないよ
黒子が選んだからもう少しマシかと思ったけど、残念だね」
「そうッスよねー…こんな拍子抜けじゃやっぱ…挨拶だけじゃ帰れないスわ…やっぱ黒子っちください」
「……!?」
「海常(ウチ)においでよ。また一緒にバスケしよう」
「…」
「なっ!?」
「マジな話、黒子っちのことは尊敬してるんスよ。こんなとこじゃ宝の持ち腐れだって」
「どこに、とは言わないけどもう少し上を目指すべきじゃない?」
「ね、雲雀っちも言ってるス。どうスか?」
「そんな風に言ってもらえるのは光栄です。丁重にお断りさせて頂きます」
「文脈おかしくねぇ!?」
「黒子?」
「そもそもらしくねぇっスよ!勝つことが全てだったじゃん。なんでもっと強いトコ行かないんスか!?」
「あの時から考えが変わったんです。火神君と約束しました。キミ達を…【キセキの世代】を倒すと」
「…やっぱらしくねースよ。そんな冗談言うなんて」
「……ハハッ」
火神が笑い声を漏らしたことにより、雲雀と黄瀬はそちらに視線を注ぐ
「ったくなんだよ…オレのセリフとんな黒子」
「冗談苦手なのは変わってません。本気です」
「……黄瀬、1on1やるよ」
「へ?今からスか?」
「うん。僕達を倒すなんて馬鹿らしいこと考える黒子やそこのデカブツの頭、冷やさなきゃならないじゃん」
「うっわー…(恭、キレてるッス……)
んじゃ、やりましょうか!」
雲雀は笑みを消し、学ランを放り投げると黄瀬からボールを受け取った