SHORT STORY
□A man of one's word
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狂い始めた朝焼け。
空に踊らされる海は、不思議と煌めいて見えた。
「先生」
耀はその長い黒髪を風に揺らして、愛しい声の主を求める。
凛とした眼差しで己を見つめる香。
表情では覚悟したのか諦めなのか、検討がつかない。
「すまねぇある。」
どうしようもない屈辱と後悔に溺れた声を絞り出す。言葉にすると増す情けなさとか、無力さとか、何より自分のせいで犠牲になる香が哀れで仕方ない。
「謝って時間が戻ればいいのにね。」
ぽつり漏れるため息に、身体中が熱を宿した。
聞こえないふりをして影を仰いでみるも、視界は濁るばかりで。
「でもね先生」
不意に近づいた吐息。
距離を縮めたのは静寂か。
「俺は幸せだったよ。」
「香…」
「たくさんの家族に囲まれて、世界を知った。教えてくれたのは先生でしょ?」
もう答えなど決まっている問いかけを、思い出す様に繰り返した。
色んな感情が交互して喉に詰まる。
「ひとつだけ約束するよ」
耳に迸る体温。
聞こえてきたのは小さくても確かなささやき。
次々と甦る記憶には優しさが彩られていく。
この瞬間を忘れないように、耀は香の身体を強く抱き締めた。
「あなたの元へ必ず還ってきます」