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□気づかないうちにフラグは立つ
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四時間目の授業が終わって、教科書類をロッカーにしまおうとした時だった。





「多美――――!!」


ドタドタと慌ただしい足音を鳴らしながら珍しく少し焦ったような顔をして藤代くんが走ってきた。



「数学の教科書持ってない!?」

ハァハァと息を切らしながらどこか思い詰めたような様子の藤代くん。



「あるよ。ちょっと待ってて…」



ロッカーの中から教科書を探しながら数学の担当教諭が脳裏に浮かぶ。基本的にこの学園の教師はどこかただ者じゃない人が多いが私は一番あの先生が苦手だったりする。まだあの先生の餌食になったことはないけど、あの先生の授業で忘れ物なんかしちゃった日には…ああ、恐ろしい。


「はい、どうぞ」


「ありがとう!!良かった〜!俺今日当たるのにどっかいっちゃって」


「あ〜私もよくあるよ。自分が当たる日に限って手元になかったり、解いたと思ってた問題が白紙だったりするんだよね」


「そうそう!それもよりによって絶対に忘れちゃいけない授業に限って忘れんだよ」


「その時の絶望感ったらないよねぇ……」


「なぁ……」



「「………はあ…」」



思わず二人でため息を吐く。次こそは忘れないと何度決意したことか。そして結局はそんな決意すらも忘れてしまう。………何だコレただのアホじゃないか。





「…ふぅ、それじゃあ俺そろそろ行くね。コレ本当にありがとー!」


嬉しそうに教科書を持った手を上げて去っていく背中に、グッドラックと親指を立てれば彼は目をパチクリさせてから笑って親指を立てた。そして軽く手を振った。



「……まるで犬のようだ」



軽い足取りで教室に入っていった藤代くんを見ながら呟く。いいなぁ、犬。寮でもペットは一応飼えるけど、自分の体力的に無理だろう。あの人達だけで精一杯なのだから、たぶん犬の面倒見るどころじゃない。
そんなことを考えながら次の英語の教科書やら辞書やらを取り出して席に戻ると、座った途端に日生くんが小岩くんとの軽い攻防戦を中断して口を開く。


「あれ、お前何英語なんか持ってきてんの?」

「……え?」

「次は授業変更で数学じゃん。朝HRで担任が…ってそういえば多美いなかったね」

早く取り替えてきな〜と和やかに笑う日生くんの言葉はもはや耳に入らない。


「…どうしよう、藤代くん持ってっちゃった…。」


そのたった一言で粗方を察したらしい日生くんは私の肩に手をおいてドンマイ☆と爽やかに笑った。
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