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□朝の時間は貴重です。
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「先輩!三上先輩!起きてください!!」
「ん〜…うるせぇ。ほっとけ」
「もーっ洗濯物でてないの先輩だけなんですよー!」
「…………」
ドアの向こうからはもう返事がかえってこない。物音一つしないこのドアの向こう側ではまたこの部屋の主が眠りの世界へと旅立ってしまったのだろう。
……はあ。まったくこの人は毎朝こうなのだ。
「はよー多美」
「あ、おはよう若菜くん。それに郭くんに真田くんも」
「おはよう平沢」
「……はよ」
最終手段としてドアを蹴破ろうとしていると(できないけど)、若菜くん郭くん真田くんの三人組がやってきた。
「また三上先輩か」
「毎朝大変だなーお前も」「あの人何しても起きないしな」
「フ…もう馴れたよ」
「そういってるわりに目が死んでるんだけど。」
郭くんがそう言うと、お前死んだ魚の目してるってよと、若菜くんがケタケタ笑いだす。ていうか魚の目とまでは言われてない。
冗談を言い合っていると後ろからドタバタと足音が聞こえてきた。
「多美ーっヘルプ!中西が起きないー!」
今日早番なのにーっとパジャマ姿で半泣き状態な根岸先輩。
「えーっ中西先輩も!?………仕方ない。根岸先輩はとにかく自分の仕度をしてください。私、中西先輩起こしてくるから三人は三上先輩を起こして…―――」
振り返ったらもう誰もいなかった。
*********
三上先輩のことはたまたま通りかかった渋沢先輩に任せて私は中西先輩の部屋まで来たんだけど。案の定いくら声をかけても起きない。何気なくドアノブに手をかけるとガチャリとドアが開いた。鍵がかかってなかったのか。(無用心な)
このまま部屋に入るのは気が引けるけど、この寮の寮監である西園寺さんに『ここの寮生たちは皆一筋縄ではいかないから遠慮は無用よ。たいていどんなことしても大丈夫だからもしもの時は手段を選らばなくていいからね』とまで言われているし、起こすのには手っ取り早いので部屋に入った。
「………」
近づいてみて初めてわかった。中西先輩は眠るときは何も身に纏わないらしい。…少なくとも上半身は。
なるべく見ないように目をつむって顔を思いっきり背けながら声をかけるしかない。
「起きてください!中西先輩!!…ってうわっ」
突然手首を掴まれ力強く引っ張られた。気づくと中西先輩に抱きつくような格好になっていて頬と頬がくっくつくらいの至近距離に先輩の顔があった。
「ちょ、ちょっと、せ…先輩!」
慌てて起きあがろうとするけど中西先輩に抱きつかれてしまいなかなか起きあがれない。困った。非常に困った。
「くくく……っ」
え。
ふと解放された反動でおもいっきり後ろにのけ反ってしまい近くにあった机の角に勢いよく後頭部をぶつけてしまった。ベッドの方を見れば上半身だけ起きあがった中西先輩が片手で顔を覆って笑いを堪えているようだった。
「多美面白すぎ」
「また、ですか」
中西先輩はしょっちゅうこういった反応に困るようなからかいをしてくる。
「いや〜多美っていちいち反応が面白いからさ。つい、ね。それに少しは男馴れしといたほうがいいっしょ?」
まあ初々しい感じが多美の魅力なんだけどさ、と意地悪く笑う中西先輩。大きなお世話だ。
「…先輩」
「ん〜?」
「今日、早番なんですよね」
「あ〜そうだったね」
「…早く仕度して朝御飯食べてください。根岸先輩が待ってますよ」
「はいよ」
まだ可笑しそうに笑う中西先輩を見ずに失礼します、と言ってすぐに部屋を出た。
はぁー……ここでの生活もだいぶ日がたつけど、まだああいうのには馴れない。
ヨロヨロと壁に寄りかかって目を閉じた