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□無邪気な犬
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あれー、初めましてやんなぁ!僕は吉村光徳。皆にはノリックって呼ばれてんねん。
にしても中学生がこないなとこで何してんねん。まだ学校やろ…て、ごめんごめん冗談やからそないな顔せんといてやー。君、法学部の一年生やろ? 名前は? 風祭将? やっぱ藤村がゆうてたポチくんや! ほな、ぽちくんって呼ぶな!
そう言うと荷物を抱え直してぽちくんは困ったような笑顔を見せた。
両手に抱えたそれはすっごく重そうで、僕は強引に取るとぽちくんに笑顔を見せる。
別に盗んだりせぇへんから! そう言うと控えめにありがとうございます、って。
アカンめっちゃ可愛いわー。そう思いながらエレベーターに二人乗り込む。

「あの、ノリックさんは、何階ですか?」

訊ねてくるぽちくんに5階だと答えると3階と5階を押してくれた。
優しいなぁ、と笑うといえそんな、当たり前ですと俯く。
ぽちくんはシャイやなー と言うとふとこちらを向いて瞳を眇める。
ぺこりと礼をされて僕の手から荷物を優しく奪うとエレベーターを降りていった。

何と言うか不思議な子やな。そう呟きながら閉まる扉を眺める。


「よー藤村やん」

扉を開けて声をかけると、うつ伏せていた藤村が顔を上げる。

どうやら寝ていたらしい。

「どないしたん?」
「ん…課題という憎い敵と闘ったせいで眠くてしゃーないねん…」

だからしばらく寝かせろと片手を振るとまた寝る体勢に入る藤村。
そんなに余裕かましてられんのも今のうちやで、とほくそ笑む。

「ふーん。そういや、さっきぽちくんに会うたんよ。」

ぽち、と藤村の唇が動き眉がよる。

「何で」

「たまたまエレベーターで出会したんやけど、藤村が言う通り仔犬みたいでむっちゃ可愛かったわぁ」

「そらよかったな。…で、お前は何企んどるん」

「別に何も。ただぽちくんと仲良うなれたらええなーと思うて。」

藤村と対面するように椅子に腰掛け、頬杖をつきながらにんまり笑う。

「今は藤村のがぽちくんと接点多いみたいやし、いろいろ世話になるやろうからよろしゅう頼むわ」

「やーっぱ、ろくなこと言わんな、お前!いややで、めんどい!」

「まぁまぁ、そう言わんと。それなりにお礼は弾むで」

そう言うと藤村は反論を諦め、僕がぽちくんに興味を持ち出した事に気付いたことには何もコメントせず、タツボンもこんくらい甲斐性があればなぁと小さく溜息を吐いた。

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