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□このヘタレ目!
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入学してから数日経った。学校にもある程度慣れ、周りもこの数日間でさすがに打ち解けてきたようで、授業が終わると親しくなった者同士でだらだらと固まって話し込む人間が多数いたが俺はもう特にする事も無いので、帰ることにした。その瞬間なんともいえない、疾風のようなものが真横を通り抜けた気がした。
不思議に思って振り向くと中学生と見間違えそうなほど小柄な男とぽやーっとしているようで何を考えているかわからない男、そして赤メッシュのオールバック男が会話をしていた。

「わりぃな、風祭」
「ごめんね、カザくん。今日は僕も用事ができちゃって」
「ううん、気にしないで二人とも。明日は一緒に帰ろう」
「うん、約束。ほら、小岩くんも」
「お、おう」

はい、と微笑んで指切り。お前ら小学生か。
なんだかどうでも良くなってきた。
と。
二人と別れて、風祭と呼ばれた男は歩き出す。
気がつけばつられるように俺も歩き出していた。

なんとなく気まずい。なるべく視界に入る場所に居ないようにして、ついて行く。いや、たまたま帰る道が同じだっただけなのだが。
角を曲がる。
うっかり道を間違えたようだ。
袋小路のそこには沸きに植えられていた桜が枝を伸ばし淡い色の花を咲かせていた。
思わず立ち止まって眺める。
風にそよいで何片かが舞う。視線を感じ顔を向ける。

「……」

呆然とこちらを眺める風祭がいた。
俺との間の舞う桜。
黒髪に幾枚かの欠片を乗せて瞳を細める。
何か言おうとしたのか、一瞬唇が開き歯列が覗く。
そのまま口を噤んで微かに口角を持ち上げた。
ああ、微笑んだのかとようやく理解したが居たたまれなくなって踵を返した。
自分は一体、どうしたのだろう。どきどきと脈打つ心臓を掴むようにして
そのまま道を辿るとようやくマンションにつく。
実家とは比べ物にならないほど狭いが背に腹は替えられない。
入り口に向かって歩みを進めると向かいにある築何十年だよとツッコミを入れたくなるようなボロアパートの中に入る風祭が見えた。
ふとあることが過る。
もしかしてそのアパートに住んでいるのだろうか。(そりゃそうだろ)
次の日、意識しない振りをして通り過ぎながらそっと向かいのアパートの敷地内を覗いてみる。
するとタイミングよく郵便受けを覗いていたらしい風祭と目が合い、風祭は一瞬戸惑った後会釈してくれた。

それから時折顔を合わせるようになり、会釈程度は交わすようになった。
しかし一向に会話をするような間柄にはならない。徐々に苛々が募り半ば自棄になってくる。
思わず腐れ縁のシゲに愚痴を零したら

「(お前それストーカーやん…)そんなに気になるなら話し掛ければええやん。ポチはおもろい奴やで」

と爽やかに肩をたたかれた。
ポチって何だ。犬か。ていうか何でお前が先に知り合ってるんだよ。でもこいつがここまで言うのなら話し掛けてみるのもいいかもしれない。
自分で言い訳をしながら翌日俺は揚々と弁当箱を広げる風祭のところへ向かう決意をした。

まさか名前すら知られていないとは思わずに。


―――――――――――
無意識に独占欲が増している水野くん。幼い頃お父さんの愛情を感じることができなかったからか、彼はただ純粋に自分を愛して欲しいだけなんじゃないかなと。でも無駄に頭もよくてファンタジスタ気質だから変なプライドに邪魔されて人に上手く甘えられない…悪循環。でもそんな不器用なところがすごく人間らしくて好きです。だからこそ毎度弄りたくなってしまう…。

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