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□おからハンバーグ
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最近やっと慣れてきた、新たな住居であるアパート。…とは言っても、大学に入ったはいいものの、タイミングが良いんだか悪いんだか両親の転勤が決まり一人暮らしを余儀なくされて、しかも『学費以外は自分で何とかすべし!』という、古風を好む父が作った家訓から血眼になって安い物件を探して辿り着いた、木造二階建て、トイレ風呂共同のオンボロアパート。父に隠れて母が渡してくれたお金もあったが生活品をいくつか揃えたところでほとんど無くなってしまった。

それからの大学生活は勉強よりも節約のほうが大変だったりする。まぁでも、仕方がない。お金がないんだから。

午前の授業を終えて待ち合わせ場所のラウンジへ行くとすでに不破くん、小岩くん、タッキーの三人が揃っていた。皆学部は違うけれど授業の時間割りが合えばこうして待ち合わせして一緒に昼食をとるのだ。

さて。待ちに待った昼食、今日のメインはおからで作ったハンバーグだ。皆も銘銘に食べ始める。少しして視線を感じ顔を上げると不破くんがまじまじと皆のお弁当を見ていた。

「どうしたんです不破くん?」
「なんか食いたいもんでもあったか?あ、この卵焼きはやんねーぞ」
「いらん。それぞれ種類は違うがよく栄養のバランスがとれた弁当だな」

そういわれてみれば、タッキーは洋風、小岩くんは和風、僕は和と洋入り交じった弁当だ。ちなみに不破くん自身は栄養ゼリーのようなものを飲んでいる。…それでいいのだろうか。思わず顔を見合わせた。

「お前それで腹減らねぇの?これ食うか?」
「栄養自体はこれで充分だ。不足はない。」
「でもたまには違うものも食べたほうがいいですよ。僕これだと少し量が多いのでどうぞ」
「不破くん、あんまり美味しくないかもしれないけどよかったらこれも食べて」

出会って間もないけど、こうして友達同士助け合える仲間がいてよかったと思う。何だか熱いものが込み上げてきておかずの一つを蓋にのせて小岩くん、タッキーに続いて不破くんへ差し出した。

「じゃ、遠慮なく」

何故か上から声が聞こえたと思ったら蓋に乗ったおかず、ではなく弁当箱のハンバーグを摘ままれた。

「あ……」

思わず泣きそうな声が漏れてしまったが仕方がない。今日のメインを誘拐されたのだから。恨めしく思いながら犯人を見上げるとそこには椎名さ…じゃなかった、翼さんがいた。

「あ、これ美味い」

お口に合って光栄です。って、それ凄く凄く大切に最後まで残していたんですけどね。

「あれ、これ食べないんじゃなかったの? 悪かったね」

あまりにも美味そうでさ、と頭を掻きながらまったく悪びれもなく笑う。これでも翼さんは入学早々初対面の僕に教科書を譲ってくれた慈悲深い人なのだ。
恥を忍んで頼んだ甲斐があった。功兄が『教科書はバカにならないからな、先輩とかから譲ってもらえ』とは言っていたけど、まさかあんなに高いとは思わなかったのだ。

「ところで翼さん、どうかしたんですか」
「…さっきからあそこの隅でこっち見てる奴がいるんだけど。あれお前らの知り合い?」
「……え?」

そう言われて指差された方を見るとその人は驚いたように肩を揺らした。

「…タッキー、知ってる?」
「ううん、小岩くんは?」
「いや、知らねー…不破は?」
「俺のデータにも存在しない人物だな。やはり総合的に風祭の関係者だと考えるのが妥当だろう」
「そうですね、こちらをというよりカザくんを気にしているようですし…」
「え、僕…?」

すると突然ソワソワとこちらの様子を窺っていたらしいその人は、顔色を変えて足早に近づく。

「風祭……この前一緒に帰ったじゃないか!」

まったく身に覚えがなかったが涙声で声を荒げて睨む姿に、思わず頭を下げた。

「ご、ごめんなさい、えと…」
「俺の名前は水野達也、経済学部1年だ。覚えるんだ。全神経使って今すぐ覚えるんだ。」
相当プライドを傷つけてしまったのだろう。目が、据わっている。
「ごめんなさい、あの、水野くん。これからよろしくね」
「…ああ!」
嬉しそうに笑う水野くんにつられて頬が緩む。

「…ところで、水野は何で将のことを(一方的に名前まで)知ってたわけ?」「え…それはその」

何だろう、妙に気温が下がったような……

「詳しく…聞かせてもらおうか」

その日、ニッコリと綺麗な笑みを浮かべる翼さんの一言で和やかな雰囲気漂うラウンジに水野くんの悲鳴が響き渡った。


―――――――――――
タッキー、小岩くん、不破くんと戯れる将くん…全然タイプが違うこの四人のほのぼのとしたやりとりが好きです。そしてちょっとお兄ちゃん目線の翼さんの本領発揮。

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