series

□保護者覚醒
1ページ/1ページ

その日は大学の入学式、だったらしい。レポート作成に必要な資料を取りにわざわざ来てみたら普段長期休み中はまばらだった校内が人で溢れていて驚いた。これから数日で仕上げなければいけない課題と向き合うため資料を手に入れると足早に立ち去ろうとしたのだが、何気なく向けた視線の先にいた人物に気がつけば目を逸らせなくなっていた。

新入生の中に一際小柄な奴が居た。その小さな体はサークル勧誘の中でもみくちゃにされていて、さらさらの黒髪が乱れて、困り果てている姿に眉がよる。

その人数や規模によって学校から支給される経費が変わるため『一人でも多くの勧誘を!』を合言葉にサークルの奴等は奴等で必死なのだ。だれこれ構わず声を掛けてるのは目に見えてわかる。はっきりと断るか上手いこと振り切ればいいものを声を掛けてくるサークルに一々反応を示すから舐められるんだ。

そんな事を思いながらなんとなく眺めていると、人波に押し出されるようにしてそいつがぶつかってきた。衝撃にむっとしながらもとりあえず謝る為に相手を見ると、漆黒の瞳に捉えられる。
頬は真っ赤で呼吸が苦しそうだ。あんなにもみくちゃにされた挙句弾き出されたんだから当たり前だろうな。
手を差し出して大丈夫かと声をかける。
恐る恐る取られたその手は華奢で、でも思ったよりしっかりしていた。
(あたりまえか、男だもんな)
そんな事を思いながら、掴んで引き付ける。
勢いがよすぎたのか此方に倒れ込んできた体からふわりとなんだか優しい香りがして思わず固まる。

「あ」

だっておかしいだろ、こんな…顔が熱い。
そもそもこいつが悪いんだ。なんかしっかりしてないから……!ほっとけないんだよ!!

だからこれは親切心だ、そんな事を思いながら、目の前の男に取り繕うように笑みを浮かべ声を掛ける。
何となく気になっただけ。ただそれだけだ。

そいつは今度はしっかり立って、ありがとうございますと丁寧にお辞儀をした。
なんとなくいい気分になって改めて大丈夫かと声をかけると、真っ赤なままの顔で頷く。それに胸がざわついた気もするが、気のせいだ。初対面の、それも男にこんな感情抱くわけがない。

「僕は法学部2年の椎名翼。…お前は?」

一瞬目を見開いたそいつは頬を染めたまま破顔した。

「風祭、将です。僕も法学部なんです」

癖の無い髪が揺れて眇めた瞳。少し様子がおかしい気がしたが、この後紡がれた言葉に呆気にとられるとは思いもよらなかった。



(あ、あの…つかぬことを伺いますが、要らない教科書ありませんか?)
(………はい?)

――――――――――
将くんは功兄から節約術を伝授してもらっています。功兄は学業をドロップアウトして俳優の道に進み、今現在も節約生活続行中です。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ