CP

□水野くんとママ
1ページ/1ページ

………遅い。
遅すぎる。現在時刻は午後1時30分。

選抜の中休みとなっている貴重な休日。
たしか俺の記憶が正しければおっとりと昼食を作りはじめた母さんが卵が足りないと買い物に出掛けたのは午前11時を少し過ぎた頃だったはず。
あれから約2時間30分経った。俺は未だに昼食にありつけていないわけだが、これはどうした事だろう。
今の今まで風祭から手渡された元キャプテンのノートを読むのに夢中で気にもとめていなかったのも悪いと思うが、少し帰ってくるのが遅すぎやしないか。グーグーと腹も空腹を訴えている。

こんな時に一番騒ぎそうな叔母たちは休日出勤でいないのは幸なのか不幸なのか。ちなみに祖母は友達と短期旅行に出かけていて今現在この家にいるのは正真正銘俺一人だ。
さて、そろそろ冗談じゃなく無事なのかの確認だけでもしようかと携帯の操作を始めたところで玄関からただいまぁ、と随分ご機嫌な声が聞こえてきた。

「ごめんね、竜ちゃん。ご飯どうしたの?」

「食べてないけど」

「そうなの!?じゃあすぐに作るわね!!」

そう言って手際良く作られた昼食は一人前分。ああ母さんはどうせ買い物に行った先で知り合いに会ってそのままランチでもしてきたんだろうなと悟るのは実はこれが初めてではない。

「今日は誰とランチしてた?」

「ふふふ。知りたい?」

「…別に」

「えー?母さん、風祭君とランチしたの竜ちゃんに自慢しようと思ってウキウキ帰ってきたのよ?」

飲もうとして口に含んでいた水を吹き出さなかった自分は偉い。それでも咽せてしまった俺を見て母さんは楽しそうに笑うだけだった。

「…なんで風祭?」

「そこの通りでバッタリ会ったの!!聞けば風祭君もお買い物に行くところでお昼まだだって言うからご馳走しちゃった」

母さん、そう言う時は俺も呼んでくれたらよかったんじゃないだろうか。家で空腹で待っている息子そっちのけで風祭と二人で食事しなくてもいいだろう。

「…母さん…」

「一回風祭君とゆっくりおしゃべりしたかったの。だって家に来てくれてもいっつも竜ちゃんが風祭君にベッタリくっついてるから母さん遠慮してたのよ?」

「だからってさぁ…」

「あ!!今日風祭君が家に来るから、部屋の掃除しときなさいよ」

今度こそ口に運んでいたサラダを吹き出してしまった。噛む前で良かった。

「なんで!?」

「お料理会するの。美味しい肉じゃがの作り方を教えてくださいって。それで夜はお泊まりよ?うちに」

だいぶご機嫌な母さんの料理をとりあえず平らげて、自室に戻って風祭にメールした。
今母さんに聞いた。ごめんな、母さんのワガママに付き合わせちまって。と言うメールの返信が

『ううん。むしろご馳走になっちゃって僕の方が申し訳ない気持ちでいっぱいだよ。でも水野くんの昔のお話もたくさん聞けて楽しかったよ。』

その後「母さん!!」と慌てて母親のところに行き、何を話したのか問いただしたのは言うまでもない。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ