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□夜道
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「風祭くん、起きなさい」
蛍光灯がまばゆく灯る中、見回りに来たのであろう西園寺の姿があった。
慌てて時計を見るとあと数分で8時になるところで、窓を見遣ると空は暗色を帯び、寝起きの将を映し出している。
「電気付けたらモゾモゾ動くからびっくりしたわよもう。明日も早いんだから早く帰りなさいね」
そう口にした西園寺にすみませんでした、と告げ部屋を後にした。誰もいない廊下を歩いて、小走りで門を抜けると、そこに居るはずもない人物を見つけ、足を止めた。

「遅い」

まだ寝ぼけているのかとまばたきを繰り返す将に、彼はそう言葉を掛けた。

「…翼さん」
何故彼がここにいるのだ。
解散時刻から1時間以上は経っている。

「忘れ物取りに来たら、お前の靴だけ残ってたから」
いくら将でも、ここまで暗いと危ないかもしれないだろ、とからかうような口調で続けた。

見た目だけでいえば自分より彼のほうが危ない目に遇いやすいのでは、と思ったものの口をつぐんだ。言ったら彼の反感を買ってしまうのは目にみえている。


「腹減ったな…何か食ってくか。将は何がいい?」

「そうですね…ハンバーグが食べたいです」

「りょーかい。んじゃ、こっち」


右隣を歩く翼さんの左手は空いている。
少し手を伸ばせば触れられるだろうその手の形と温もりを既に知っているからか、ふつふつと湧く想いはどこか貪欲だ。
手を繋ぎたい、なんて。
いくら人がいないと言っても無理な話だろうか。
欲が出て来てしまうからなるべく正面を向いたまま、彼の方を見ないようにしていたら、急に右手を彼に強く引かれた。傾いた体のすぐ横を自転車が通り抜けていく。

「危ねぇなぁ、ライトくらい点けろっつーの」

「あ、ありがとうございます」

「いや、咄嗟だったから。…引っ張って悪かったね」

「いえ、そんな」

まだ翼さんに掴まれたままの右手。
彼は離そうとしないし、僕も離して欲しくはない。
でもどうせなら。

「翼さん」

「あ、悪い。手…」

「このまま、もう少し繋いでいてもいいですか?」

離そうと緩んだ隙に僕から繋ぎ直した手は温かい。
少しの間の後に「じゃあ、ゆっくり歩く?」と言ってくれたのが嬉しくて、繋いだ手に力を込めた。

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