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□ありがちマッサージ
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長い長い練習を終えて、山口はぐうっと背中を伸ばした。喉が乾きを訴えている。
給湯室に設置された冷蔵庫に入れておいた特製ドリンクはもうだいぶ冷えているだろう。早く涼みたい一心でそそくさとその場を後にした。その途中で、このナショナルトレセンにおいて何かと接する機会が増えた東北選抜の日生と出会したので二人連れ立って館内に入った。想い人に関しては皆譲れない、譲るつもりなど毛頭ないが、やたら守備力が高い東京選抜を崩すには地方組で力を合わせるべきだという考えにより、他数名と協定を結んでいる。
そんなわけで次の対策を話し合いながら歩いていると、あと数歩で給湯室という辺りで不意に声が聞こえてきた。聞き覚えのあるその声に東京も練習終わっていたのかーと何気なく、閉じられた一室の扉に手をかけた。
「あ、そこ」
「ここ?」
「んっ、やば…」
おもわずノブにかけた手を離し日生を見ると、日生も不審そうな視線を扉に向けている。この声は間違いなく風祭と藤代だ。でもなんだか、入ってはいけない異様な雰囲気を放っている。
「ちょ、待って…いたいから…!」
「痛くないよ。徐々に気持ち良くなるって、ね、藤代くん…?」
「そこはだめだって、ほんと…!」
「大丈夫だから」
「あ、もう…風祭うますぎっ」
そのまま日生と二人して青ざめながら3歩下がった。ギギギ…と古びたドアを彷彿とさせる効果音がつきそうなくらいぎこちなく顔を見合わせる。
「うわ…うわ、なにこれ。なんなんですかこれ。」
「てゆうかあの、風祭が、その…それなのか?」
と混乱する二人の肩を叩いたのは渋沢だった。
「「うわあああっ」」
おもわず過敏な反応をした二人に渋沢はぎょっとした。
「どうした。幽霊でも見たのか、顔が真っ青だぞ」
「ち、ちが…!」
ある意味幽霊より恐ろしい現場に遭遇してしまいました、と言いかけて日生が口を噤んだ。ふたりが隠してることなら無闇に言わないほうがいい。
「そうか。で、なんでこんなとこに突っ立ってたんだ?」
「あ、えっと、忘れ物を…」
「なら早く入ればいいだろう」
と、渋沢が眉を顰めた。それは…そうなんですけど、ちょっと…な、と二人ははっきりしない返事で答えた。
「俺が取ってきてやるから待ってろ」
「あ、今はいいって渋沢!」
「なんでだ。ないと困るだろう」
「そうですけど、今はそういう気分じゃないんで!」
「どういうことだ」
「よせって渋沢…あああ」
「ちょ、あああ…」
言いながら、渋沢は室内に入っていってしまった。しかし動揺してすぐ部屋を出てくるのを予想していたのに出てくる気配はなく、不思議に思いドアに耳を寄せた。
「休憩時間中に何やってるんだお前らは。あと少しで次のメニューだぞ」
「すいませーん」
「藤代くん、今日はこれで終わりね」
「えっ、まだ全然足りないんだけど…」
「続きは明日のお楽しみ」
「えー……」
「風祭、あとで俺にもしてくれ」
「ちょっとキャプテン!キャプテンはどうせ途中で寝ちゃうじゃないっすか」
「風祭がうますぎるんだよ」
・・・・・。
「えええー…し、渋沢ともそんな関係なのか…!?」
「しかもあの人に対しても風祭がそっちの立場なんて…」
二人は驚愕して、その場からフラフラと距離を置くように逃げていった。
「…あれ、いない」
捜索を諦め、ドアをあけて渋沢が首を傾げた。
「どうしたんですか?」
「いや、山口と日生がそこにいたんだが」
「まじすか。てか風祭、片足だけとかめちゃくちゃ中途半端なんだけど。ちゃんと両足してよ」
「ちゃんと明日やるから」
「風祭、なんでそんなにマッサージ上手いんだ。サッカーよりそっちのほうが向いてたんじゃないか、なんてな」
「渋沢先輩それって誉め言葉なんですか……」
「お前のテクニックを褒めてるんだ」
「テクニックとかキャプテンが言うとなんかえろいですね。聞く人が聞いたら誤解ちゃうっすよ」
まあ俺もたいがい誤解される発言してたけどね、と心の中で思いながら藤代は笑った。
よくやるはなし
ちなみに藤代は確信犯である