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□総受けに憧れて
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「つまんない」
「ん?」
「つまんない!」

ある昼下がり。
念を押すように2回、藤代は言った。

「なにが?」
「あれ見てよ、あれ」

藤代が指差した先には、最近サッカー技術がめきめき上達し、くせ者揃いの選抜に漸く馴染んできた風祭の姿。

「風祭?」
「そっちじゃなくて、ほら」

藤代が再び視線を向ける。それに倣ってその場にいた面々も視線を移す。サッカーボールが二十数個詰められた袋を運んでいる風祭に椎名が近付いて何回か会話をすると、椎名は風祭からそれを取り上げて、運んでいる。

「今まで散々、“お前何様?”とか何とか嫌味言いまくってたくせに、いつの間にか気づけばあれだよ。俺のが先に風祭の実力見抜いてたのに〜」

そう言う藤代は、大変おもしろくなさそうだ。

「あいつ俺には過保護だ何だ言っといて…」

目に見えて苛々している水野も藤代に同調する。
すると、ひょいと後ろから現れた黒川やら畑が笑う。

「仕方ねーよ、あいつずっと従順な弟分欲しがってたし」
「そうなん?」
「去年七夕で願ってたもんな」
「そ、そんなに…」

短冊に『弟分がほしい』と書き込んでる椎名を想像したらなんだかおもしろくて笑ってしまった。対して藤代や水野はさらにおもしろくなさそうに眉をひそめる。

「あれはどう考えても弟分とかに対する接し方じゃないじゃん」
「まぁ、たしかに弟分というよりどっちかっていうと…」
「あれで付き合ってないんだもんなー、あの二人」
「いい加減告白なりなんなりすればいいんだよ。変に両片想い状態だから妙なフワッフワしたピンク空気が流れるんだろ」
「嘘っまだ付き合ってなかったの、こないだナチュラルに食べさせあいっこしてたぞ!?」
「それは初期からそうだろ」
「ったく、何で男だらけの合宿で人様のイチャイチャシーン見なきゃならねーんだよ!」

弟分というより、恋人のようだという認識は皆共通らしい。桜庭の一言に触発されたように日頃の鬱憤を叫び出す。

「TPO考えずベタベタしやがって…!」
「昨夜とかさ!風呂場でうっかり遭遇しちまって超気まずかったし!」
「そりゃ俺だってさぁ、イチャイチャしたいよ!?でも相手がいないんだよ!」
「風祭…ああ俺の理解者風祭…!」

と、水野が叫んだ瞬間、
『ゴールキーパーの心得』というチープな本を不破が閉じる。

「…言っておくが、…」
がたん、と椅子から立ち上がって、手を腰におき仁王立ちし、堂々たる様子で不破は言った。

「風祭は俺のナビゲーターだ」


いや、違うだろ!
と一斉に思ったが、不破の威圧感に泣きそうになった水野と、何も言えない選抜メンバーであった。

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