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□二人暮らし
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「ポチ、朝やでー」

「ん・・・ぅう、あと・・五分・・・・」

「・・・・それ五分前にも聞いたんやけどなぁ」

少しだけ頭を動かして目ざまし時計を見ると、時刻は6時20分。昨日も夜遅くまで自主練していたためまだ数時間しか経っていない。

「ホラ、起きないと朝ご飯冷めるでー」

別に冷めてもシゲさんの作る料理は美味しいから気にしない。

「もー、目閉じたらあかんて!」

もう放っておいてほしい…。

「ポチー?おーい、生きとるかー・・・・・起きないならキスするで」

・・・・・・ん?今なんて?

「このまま襲っても起きないお前が悪いんやからな、うん」

「っ、お、起きます!起きますから!!」

上から聞こえてきた不穏な台詞に慌てて目を開けると、ベッドの上でのしかかる様に迫ってきていたシゲさんと目が合った。
「はい、おはよーさん」
ぽん、と頭の上に置かれた手は自分のものより一回りも大きい。
「・・・おはよう、ございます」
挨拶しながらじと目で睨みつけてやると、彼は風祭の頭をくしゃくしゃと撫でてからベッドから降りる。そして部屋から出て行きざまに振り返ると、胸元を指指して悪戯っぽく笑っていった。

「・・?何・・」

不思議に思い視線を下へと降ろす。
すると・・・

「なっ・・・・!」

着ていたパジャマのボタンが全開になっている。
シャツを着ずに寝たので、もちろん胸が丸見えだ。昨日寝る時はちゃんと閉めて寝たはずなのに・・・
恥ずかしさやら怒りやらを取り敢えず抑え、手早く着替えてキッチンにいるであろう彼の元へと向かう。

「シゲさん!!」

そして冷蔵庫に手をついて肩を震わせていた彼の向かって、叫びながら思いっきりスリッパ(来客用)を投げた。
スリッパは放物線を描きながら彼めがけて飛んでいき――

ベシッ

振り返った彼の額に思いっきりぶつかった。
「いてて・・・、なにもスリッパ投げる事ないやんか」

額を擦りながら近づいてくるシゲさんは、そう言いながらも笑顔だ。

大体、シゲさんなら難なく避けられたハズなのに、当たったのはきっとわざとに違いない。そう思うと余計に腹がたって、自分より少し広い胸板をバシバシと叩く。

「シゲさん!本当にやめてくださいっ!!」

「いたたっ、痛いって、ちょ・・」

「いつもいつも変な事して!今日という今日は許さないんですからねっ」

「ごめんて!俺が悪かったから髪引っ張らんといて」

笑いながら謝るシゲさんはどう見ても反省している様には見えない。ますます腹が立って、両手で彼の頬をバチンと挟むと再び睨みつける。

「全く・・・、なんで毎日毎日ああいう事するんです?」

はあ、と溜息をつきながら聞いてみるが、いつもの飄々とした笑みで誤魔化されてしまう。ホントにこの人は何がしたいんだか・・・
いつまでも怒っていても時間の無駄だという事は、彼と暮らし初めて数日で学習済みだ。
風祭はもう一度溜息をつくと、彼の頬から手を離して食卓へ向かった。

*****

「あれ・・・」

歯磨き粉がない、そう言おうとしたところで洗面所の入口から彼が顔を出した。

「なーポチー今日・・・・って、ポチ・・・それ」

風祭の方を見た佐藤が一瞬訝しげな顔をして、一旦口を噤み、ニヤリと笑ってから再び口を開いた。
「・・・俺の歯ブラシなんやけど?」

「え・・・嘘・・」

自分が咥えていた歯ブラシをもう一度よく見てみる。シゲさんとは色違いの歯ブラシを使っていたはずだ。

風祭は青。

佐藤は緑。

風祭が咥えていたのは・・・・・緑だ。

「ッ――す、すみませんっ、すぐ洗います!!」

慌てて蛇口を捻り、ガシガシと歯ブラシを擦る。恥ずかしい。きっと今の自分は耳まで真っ赤になっているに違いない。
俯いていると、いつの間にか手元が暗くなっている。
「・・・・・?」
佐藤が風祭の背後に立って、覗きこんでいたせいで照明が遮られたのだ。
苦笑しながらこちらへと手を伸ばしてくる佐藤。

「そんなの気にしなくてええよ、・・・だって・・」

腕を掴まれる。
「こーゆー事・・」

顎を持ち上げられた。
「するつもりだったし?」

佐藤の端整な顔が近づいてきたと思ったら、唇に何かが触れる。

「んっ――、ふ・・・っんン・・・ッ」

生温い何かが口内へと入ってきた。舌の上に広がる珈琲の味。
「っん・・・は、ンッ・・んぅっ」
キスされてる、そう認識した時には既に膝が笑って床にへたり込みそうになる。
佐藤の腕が腰にまわされ、風祭の身体を支えつつ、唇は離されないまま舌を絡め取られた。
抵抗する為に伸ばした手は、無意識のうちに佐藤のシャツをきつツをきつく握りしめてしまっていた。

どのくらいそうしていただろうか−−−

風祭が酸欠で意識を手放しかけたところでやっと唇が離された。

「はっ、ぁ・・はぁっ・・・シゲ、さ・・っ」

「悪い悪い、ポチが可愛い声出もんやから・・・つい、な」

「っ・・つい、で済みません!!」

肩で息をしながら、涙の滲んだ瞳で佐藤を睨む。
だが、それを気にした様子もなく口角を上げ、風祭を掴む腕に力を込めた。
「でも、これで分かったやろ?」

「・・・・っ」

佐藤の目がいつになく真剣な事に気付く。
その綺麗な瞳に吸い込まれそうだ。
佐藤はぐいっと風祭を引き寄せると、耳元に口を寄せる。
そしていつもより少しだけ、低い声で囁いた。


(やっと気付いたん?お前ってホンマ鈍いなぁ・・・・・・ま、そんなトコも可愛いんやけど)


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