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□ノンストップ恋心
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気付いたら目で追っていて、何気ないことでも話し掛けられたら嬉しくなって。しまいには本人がいないところで今は何やっているのかと気になる始末。しばらく気の迷いだと見て見ぬ振りを決め込んでいた。
しかしある夜、この感情に名前をつけるとそれはすとんと自分の中に落ちてきた。

俺は、風祭のことが好きなんだ。

自覚したところで行動に出そうとは思わない。この感情をぶつけたところで否定はしないが受け入れてくれることもないだろう。
真田自身も決して同性愛者という訳ではない。過去を遡っても恋愛対象は異性だった。真田からしてもなぜか同性の風祭に惚れてしまった、という訳だ。
そしてそこから導き出される結論はただひとつ。この気持ちを風祭に伝えることなく忘れてしまおう。恋を自覚した夜にそこまで思い至った真田は、ちくりと胸に痛みを感じながら眠りについた。
*

「おはよう」
「……はよ」
「…真田くん、何か元気ない?」
「あ、ああ…いや、大丈夫」

いつも通り挨拶したつもりなのに風祭は心配そうに真田を覗き込む。
忘れようと思った恋心がそんな些細なことでぼっと燃え上がってしまう。
この恋心をなかったことにしてしまおう。頭ではわかっているのに、心が勝手に膨らんでいってしまう。
視界に入るだけで気分が上がり、隣に座るだけで血沸き肉躍るようだ。
それでも得意なポーカーフェイスのおかげでそれが表情に出ることはない(と思いたい)。忘れようともがけばもがくほど風祭に向ける感情が大きくなる気さえしていた。

*

そんなある日のことだった。解散したミーティングルームで真田は監督に手渡された資料に目を通していた。風祭も同じだったようで通常FW組の定位置ともいえる座席で二人並んで資料に向かっていた。
二人きりというこの状況に、柄にもなくどきどきとしてしまう。しばらくお互い無言で作業をしていたけれど、突然風祭がふわぁと大きく両腕を突き上げた。

「ちょっと休憩しようかな」
「…あっそ。」

個人作業なのだから風祭がどのタイミングで休憩しようと構わない。それなのに律儀に断りを入れるのが何とも風祭らしい。緩んだ表情が可愛い、なんて考えを頭の隅に追いやって作業に集中しようとする。

そのとき。

「っうわ」

何してるんだといつもより近い距離にある風祭の顔を見つめる。

「な、何してんだよお前!」
「…ちょっと、眠くて…」

真田の肩に頭を預けたまま風祭が眠たそうに欠伸を吐き出す。
起こさなきゃならないのに、それが少しもったいなく思ってしまい。しばらく逡巡して黙っていたら風祭はすやすやと寝息を立てはじめた。
気持ち良さそうに眠る風祭の寝顔を見てしまうと、無理矢理起こすのも憚られてしまう。

風祭から来たんだと誰に言うでもなく言い訳をして、真田はソファーの背もたれに体重を預けた。
風祭のさらさらとした黒髪が首にかかり、心がざわついてしまう。
肩を貸しているのだから少しくらいとまた誰にでもなく言い訳をして、空いた手で風祭の髪に触れた。
触れてしまえば心に秘めていた感情がもくもくと大きくなってきてしまう。どうせ風祭は寝ているのだからいいだろう。これは伝えたことにはならないと自分を納得させて真田は口を開いた。

「風祭、好きだ」

言ったら満足するだろう。
この秘めた恋心を忘れることも出来るかもしれない。
そんな淡い期待を込めた告白を口に出してから後悔することになった。口に出してしまえば答えが欲しくなり、忘れるどころか更に強くその気持ちを自覚してしまったのだ。
呆れるくらいに一致しない頭と心に苦笑いをこぼす。

「決めた。俺はお前を好きでいる」

お前には言ってやらないけど。小さく笑って、最初の決意を改めたのだった。

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