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□健全ボーイ
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真田が風祭と恋人になって初めてのお宅訪問の日がやってきた。
もしかすると、もしかするかもしれない。
なんて淡い期待を抱いてしまうのは仕方がないことだ。
真田はそんな期待を胸の奥にしまいこんで風祭の家へと向かっていた。
だって、付き合い始めてまだキスすらまともにしたことがないのにその先をいこうなんて無茶だろ。
それにがっついて余裕がないところを見せたくもないし。
一人でつらつらと言い訳を並べていると、いつの間にか風祭の家の前まで来ていた。
緊張で震えそうになる指を抑えながらインターホンを鳴らす。
風祭と俺は恋人なんだと頭の中で唱えて心を落ち着かせているといらっしゃいと言う声とともに玄関のドアが開いた。
まだ散らかってるんだけどと苦笑いを浮かべる風祭に気にしないと告げて、真田は部屋の中に踏み込んだ。
初めて訪れる風祭の部屋。
ジロジロ見てはいけないと分かっているのに、つい視線があちらへこちらへと移ってしまう。

「普通に片付いてるじゃん」
「頑張って片付けたからね」

恋人を初めて呼ぶんだから。
そうはにかむように笑った風祭に真田の体温がドッと上がる。
ここは密室で、隣には最近思いが通じた風祭がいて…真田はここに来るまでに固めていた己の決心が早くも揺らぎ始めているのを感じていた。

とりあえず座りなよと勧められて真田は用意されていたクッションの上に腰を下ろした。
共にワールド杯を観戦する約束をしていたせいか、風祭のクッションも真田のものの隣に置いてあった。
今は飲み物を取りに行っているが、風祭が座れば肩が触れ合うほど近いだろう。
以前とは違う距離感に嬉しいような、恥ずかしいような気持ちが湧いてくる。
風祭が戻ってきて、真田が手土産に持ってきたお菓子を開いてタイミング良く試合は始まった。

途中触れ合う肩の温度や、動いたときに偶然重なった指に気持ちを揺さぶられはしたがなんとか平静を保ったままでいることが出来た。
風祭は気にならなかったのか、どこそこのプレイ場面が凄かったと無邪気に試合の感想を述べていて少し寂しい。
一通り感想を話し終えると、二人の間にふと沈黙ができた。
まだこの緊張を気にしないほど二人の時間は長くない。
お互いに初めての状況に緊張してしまっているのだ。
だから真田が口にした言葉に他意はなかったのだ。

「今日は暑いな」

汗かいちゃったよ、とTシャツの胸元を扇ぐ。
気まずくなった時は天候や気候の話ならばハズレがない。

そこからこの変な緊張を解せたらと考えた真田だったが、風祭はごめんねと告げて突然立ち上がってしまった。

「少し待ってて」

そしてそう言い残して部屋を出て行ってしまった。
呆然とする真田。
風祭はどこに行ってしまったんだと気になるけれど、待っていろと言われた手前下手に動くことも出来ない。
何かを気に障るようなことを言ってしまったのかと心配にもなったが、風祭は怒っているようには見えなかった。
どちらかというと、申し訳なさそうな顔をしていた気がする。
風祭の考えていることが全く読めずに困惑していると、腕まくりをした風祭が部屋に戻ってきた。

「お風呂沸いたから入ってきて」
「え…?」

それってどういう意味なんだ?
確かさっき何の気なしに口にしたのは暑いという言葉だった。
汗をかいたから風呂に入ってこいと。
…分かるんだけど、分からない。
単純に汗を流してこいという意味なのか。
それとも風呂に入った後、胸の奥にしまっていたような展開で互いスッキリしようというのか。
恐らく前者なんだろうが、風呂に入れなんて意味深過ぎるだろ!
つい深読みしたくなる男心だってわかって欲しい。
真田の脳内で繰り広げられていた葛藤は風祭によって遮られた。

「少し温めに設定してあるから」

無邪気な顔にその後の展開について想像するのをやめた。
そもそもそんなつもりじゃないしと心の中で虚勢を張り、笑顔でサンキュウと答えた。

しかし後から背中を流してあげると風呂に乗り込んできた風祭に、真田はまた悶々と頭を抱えることになるのだった。

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