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□照れ顔
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「ねむー……」
と、藤代が眠気に負けて手元を狂わせたのと、バサバサと鳥達が羽ばたいたのは同時だった。

「わ、藤代くん!」
「はっ! 風祭、ごめん!!」
鳥達は藤代がうっかり水をかけたのに驚いてしまったようだ。
その驚きように藤代、そして風祭もまた慌ててしまい、あちこちに大きな水たまりを作ってしまった。

ことのはじまりは昨夜、武蔵森寮にて起こったサッカーの一軍レギュラーを巻き込んでの大騒動。自主トレの一つとして素足でサッカーボールを転がし続ける風祭に藤代がちょっかいをかけ、気づけば寮長の顔面にシュートを決めていた。当然それは不祥事として鬼の監督の知るところとなり、大目玉をくらった後罰として早朝掃除を命じられたのであった。
そして今に至るわけだが、寮部屋程ある鳥小屋は、鳥たちにとって非常に快適な場所だ。しかし、サッカー部の朝練が始まる前に終わらせなければならない二人にとってはこの広さは忌々しいものである。
「これ…終るのかな…」
うつらうつらと如何にも眠そうな様子の藤代は嘆く。
朝早くから鳥たちは目を爛々とさせ動きまわる。そのため掃除は難航していた。
「掃除中だけ箱か何かに入れたい…」
「それは、逃がすも同じだからね……」
移さなければならない程この小屋は狭くない、鳥もそこまで多くないからという理由で、二人の掃除当番はこの作業を分担してやる事が決まったのだからしかたない。
嘆く藤代を宥めながら風祭は掃除をすすめた。

数十分かけて部屋の半分を終え、掃除開始一時間後……ようやく、鳥小屋はきれいになった。
「ふー……」
「藤代くん、お疲れさま」
「もー寮に帰って寝たいー」
「今から戻れば少し寝れるよ」
今にも寝てしまいそうな藤代を慰めながら風祭は寮へ向かって一歩踏み出した。
その時。
「うわっ!?」

水でぬかるんでいたのか風祭は泥に足を滑らせてしまう。重力に従って後ろの方へ体が傾いていく。
「風祭!」
せめて被害が最小になるように受け身をとろうとしたところで、咄嗟に孝明君が受け止めようと手を伸ばしたのがわかった。
でも支えきれずに二人そろって倒れてしまった。

「……いっ……」
「……だ、大丈夫藤代くん!?」
「な、なんとか……」
藤代くんは苦い声で言った。
背中から地面に倒れたようだけど、なんとか頭は打たずにすんだらしい。
「風祭は平気……?」
「うん、藤代くんのおかげで大丈夫」
風祭の顔を心配そうに覗き込んでいた藤代は、ならよかったと囁く。二人揃って無事だったことに安堵し、ふと互いの距離に意識が向いてその顔の近さに驚いた。バッと素早く離れ藤代は起き上がる。その頬がうっすら色づいていたのは気のせいだろうか。普段勢いよく抱きついてくるのにもかかわらず、突然の出来事に照れている様子の藤代が可笑しくてクスクスと風祭は笑う。それに対し藤代は少し拗ねたように唇をどがらせた。
苦笑しながら風祭は上体を起こすと、ズボンの泥を掃っている藤代を見上げる。
「藤代くん」
「んー何?」
「ありがとう……受け止めてくれて」
藤代は一瞬驚いたような顔をした。

「嬉しかったよ」

何か言おうとしたのか何度か口を開いたけど何も言葉を発しない藤代。だが次の瞬間、とても嬉しそうに笑った。
そんな藤代に、風祭も心からの笑顔を向けたのだった。



「さて、と。これは一度着替えないとね」
「えーめんどい…」
今度はご飯を持ってくるねと鳥たちと約束をして、その場を後にした。
いつも自由奔放でキャプテンや他の皆を困らせしまうこともあるけど、男らしくてサッカー以外でもいざという時は頼りになる藤代。できればまたあの照れた顔を見たいと思ってしまう。そんなことを考える自分が可笑しくて、藤代の魅力にまた惹かれてしまったことを自覚する。……だから、寮に戻って根岸に目撃され「泥カップル〜」とからかわれても、風祭はずっとニヤついていたのだった。




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