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□味噌汁
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俺たちが出会ったのは、中学生のとき。
お互いに出会いの印象は最悪で、できる限り関わりたくないなんてことを思っていたこともあったけど、いつしか俺たち二人はなにかを想い、惹かれていた。それが、恋なのか何なのか、よく分からない感情を残したまま、あの事故が起こり風祭は日本を離れ、ドイツへと旅立っていった。


離れてみて、
たしかに感じたもの。

それは、


心のどこかで感じた物足りなさ、俺の中でのあいつの存在の大きさだった。






「毎日俺に味噌汁をつくってください」


目の前に正座した真田くんが真っ黒な瞳で僕を見つめる。同じく正座した僕は首を傾げてその目を見つめ返す。彼が突然正座しだしたので思わず釣られたわけだが、洋風に統一された真田くんの部屋にそれはあまりに不自然な体制で、おまけに真田くんはよく分からないことを言い出すし、さっぱりだ。


「……何か反応しろよ」

沈黙に堪えかねた真田くんが俯いてぼそりと呟く。どんな反応をすればよかったのだろう。別に味噌汁を作るのは構わないけれど。どうしてこのタイミングで、この体制で。


「はい」
「……おまえ意味が分かって言ってるのか?」
「えっ?」
「……」


はあ、とため息をついて真田くんが頭を垂れる。また沈黙が流れて、僕が馬鹿だから分からないのかと必死で思考を巡らせるけれど結局分からずにまた首を傾げる。再び顔をあげた彼の頬はほんのり赤く染まっていて。


「普通はこんな風にプロポーズするんだろ?」

「えっ……」


上目遣いにそう言った彼を思わず凝視してしまった。真っ赤になった真田くんは恥ずかしげに目をそらす。まさかプロポーズだったとは思わなかった。この人ちょっと天然なところもあるから、意味のないことを言い出したのかと思っていた。そして深夜ひとりでインターネットか何かで一生懸命プロポーズの仕方を調べている真田くんを想像したら笑いがこみ上げてきた。(もしかしたらあの二人にからかわれてしまった可能性も捨てきれないけど)

「しないよ」


いつのドラマなの、と笑えば真田くんは面を喰らったような顔をして、また目をそらした。いつも自信に溢れた君の情けない表情。それがどうしようもなく愛しくて、思わず手を伸ばした。だけどその手は彼に届く前にしっかと捉えられてしまった。静寂が部屋を包んだのは何十分か、それとも数秒だったのかもしれない。ごくりと唾を呑み込んだ。真っ黒な瞳が何かを激しく訴えかける。


「辛い思いをさせちまうこともあるかもしれない。だけど俺はお前とずっと一緒にいたい。何よりも風祭のことを一番に考えて、誰よりも風祭のことを理解したいと思ってる」


一呼吸置いて、ふわりと笑った。


「俺、お前のことが好きなんだ」



前途多難
だけど、二人ならきっと大丈夫

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