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□少しずつ、
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「今度の日曜、俺ん家来ない?」


選抜合宿が終わって数ヶ月、月数回しかない選抜の他に若菜くんはU-14もあって忙しくてなかなか会えないのだけれども、今日はその合間をぬってこうしてお茶をしていたのだった。


「今度の日曜日、久しぶりに休みを貰えたんだ。将がよければ遊びに来てよ」


若菜くんはそう言ってニッコリ笑った。選抜の時とはまた違った、少しも壁を感じさせない優しい笑顔。跳ねる心臓を押さえつつもちろん、と快諾すれば彼はお日様みたいな笑顔を作ってまた僕を幸せな気持ちにさせた。そして多忙な彼と名残惜しくも店の前でさよならして帰路についたのだった。そして日曜日がきて、最寄りの駅で合流することになったので到着してすぐに姿を探す。あ。いた。派手な服を着ているわけでもないのに彼はなぜか目立っていた。なぜかってそれは多分生まれ持った華やかさのせいかもしれない。


「若菜くん」

「あ、将!」


ようこそ俺の街へ、そう言って若菜くんは手を差しのべた。笑顔が眩しい。何をしてても彼はいつだってキラキラしてるんだ。これは真似しようと思って真似出来るものではない。差しのべられた手をとりその温かさに思わず微笑む。


「将の手、冷た」


若菜くんは僕の手をギュッと握った。ああ、なんて幸せなんだろう。今が人生で一番幸せな時じゃないかと思うくらい。叶うならこの手を一生離さないでほしいなんて馬鹿なことも思ってしまう。にこりと微笑みあって、僕達は並んで歩きながら彼の家へ向かったのだった。

「お、お邪魔します」


彼の家は豪邸だった。予想通りといえば予想通りだけどなんだかすごく緊張してしまう。今日はお母さんがご在宅だと聞いている。


「将ったら緊張しすぎ」


はは、と若菜くんは笑った。そんなこと言ったって緊張しない方がおかしい。いつもより若干無口になりつつ靴を揃えていると、背後からふいにおかえり結人、と女の人の声が聞こえた。


「お袋」


振り向き彼の視線を辿ると、若菜くんそっくりの綺麗な女の人がそこにいた。


「昨日言った、将」

「まあ、貴方が!」

その人は少女のような目で僕を見つめた。なんとなく見られると緊張してしまう。カチカチになりながらはじめましてと挨拶すれば彼女はにっこりと目を細めた。


「結人から話は聞いてるわ。ゆっくりしていってね」






「信じられない」


若いし美人だしチョコレート色の髪に人懐っこそうな猫目だって若菜くんの生き写しみたい。僕がそう言えば彼はそうか?と不思議そうな顔を浮かべた。


「よく言われるけど俺は分かんないんだよね」


絨毯の上で胡座をかきながら彼は言う。そんな雑談をしつつ視線はどうしても彼の部屋に行ってしまう。彼がそっと髪に触れる。近付く距離に心拍数は上昇していく。


「なぁ、将……」

熱っぽい視線が絡み合い、若菜くんの顔が近付いてくる。その唇が僕のおでこに触れた。鼻先、こめかみ、頬と順番に柔らかな温もりを感じる。恥ずかしい。だけどそれよりも心地いいという気持ちの方が上回り自然に目を閉じた。彼に全てを委ねるように。大きな手が僕の頭を撫でる。もう片方の手は僕の背中に。唇と唇が触れ合、


「お邪魔しまあす」


僕達は光の早さで離れた。


「紅茶はいかが?」

紅茶の良い香りがした。
……もしかして確信犯?






「今日はありがとう」

「いや俺こそ。楽しかった」


途中からお袋が乱入してきたけどね、そう言って若菜くんは楽しそうに微笑んだ。えっと、まあそういうことだ。


「またしばらく会えなくなっちゃうね」

「だな。でも今日将を充電したから、しばらくは頑張れそう」


なんて彼は冗談っぽく笑った。笑いながら手を降ってじゃあばいばいと言いかければ、


「あ、ちょっと、将」


ちょいちょいと若菜くんが手招きをするので何だろうと思いながら彼のあとについていく。若菜くんが立ち止まったので一緒に立ち止まると、突然視界が暗くなった。それはあまりに一瞬のことで何が起こったのか分からなかった。


「もーらい」


若菜くんはふふっと笑った。そこで初めて何が起こったのか理解する。一気に顔がかあっと熱くなった。


「こんなところで……!」


真っ赤に火照る顔を隠しつつ避難を浴びせたら何のために死角に来たと思ってるのと言われた。そんな得意気に言われても。



「お預け喰らってそのままでいられる程俺は大人じゃないの」


そして若菜くんは僕をグイッと引き寄せ耳元で囁いた。それは低くて、クラクラするほど甘い声。


「また遊び来いよ」


初めて、彼に変態を感じた日だった。

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