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□ヒーロー
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「…ひとりでも大丈夫ですよ、翼さん」
電話越しに聞いた細い声が震えていた、ただそれだけのこと。
身支度もそこそこに、財布だけ掴んであいつの家まで来ていた。
こんな時間に押しかける……どう考えたって良識的じゃない。
インターホンを押しかけた指が何度となく宙を彷徨った。
あいつが大丈夫だと答えるときは、大抵無理をしているときだ。
こんな時ばっか素直じゃないんだから。少しくらい甘えてくれればいいのに。
何かあってからじゃ遅い。
だから、だから。
拙い理由に依りかかって、僕はここにいる。
「翼さん……!?」
さんざん悩んだ挙げ句にメールを送ったら、返信よりも先にドアが勢い良く開いた。
鼻先を掠めそうになるそれを交わしながら、努めて平静を装う。
「ずいぶん豪快なお出迎えだな。ありがたいけど、確認取れるまでチェーンロックは外すなよ。僕のフリした別人だったらどうするの」
「あ……、ごめんなさい……」
咎めたつもりは無かったのに、将は申し訳無さそうに表情を曇らせた。
違う、そんな顔させたくてここに来たんじゃない。
焦る気持ちを押し込めて急いで笑顔をつくった。
「いや…僕もこんな時間に押し掛けるのもアレかと思ったんだけど……」
頭の中で何回も繰り返したはずの言い訳は、自分でも失笑するくらいの歯切れの悪さ。
将は何事かを小さく呟いてしきりに首を振る。
無理に笑おうと必死になっている顔は強張ったままだ。
迷惑ではないことを伝えたいらしい、その気持ちだけは痛々しいほど分かった。
半ば強引に玄関に入り後ろ手でドアを閉め、もう片方の腕で将を引き寄せた。将の肩が跳ねる。
力加減を誤って予想以上に密着する形になった。
否が応でも将の薄い身体を意識してしまう。
この場で細い肩を抱き締めて押し倒して色々、出来たら、とか。
ああ、かみさまほとけさまキリストさますいませんでした今のは聞き流してください。
(しんでしまえ、自分……)
仕草ひとつに深い意味を持たせないように、細心の注意を払って将の頭を掻き回す。
わざと乱暴にしてやって、いつもの冗談ですよ、のポーズ。
「わわっ! つ、翼さ……っ!?」
将は真ん丸な瞳を更に丸くして僕を見上げた。
僕は、おまえが好きなんだ。
抑えられなくなるほど好きで好きで、好きで、好きで。
「笑え、将!」
そろそろ限界なのかもしれない。と思ったら、本当に限界のような気がした。
もう後がない。だけどきっと先もない。
いっそのこと、おまえを傷つけるくらいに狡くなれたらいいのに。
無様な情欲を腹に沈めてひたすら笑った。
頭をくしゃくしゃにした将が、赤い目許でゆっくりと微笑む。
そんな将をただひたすら抱きしめた。
.おまけ→