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□お見通し
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今日は彼と二人喫茶店でお茶を楽しんでいた。
「…………」
テーブルの向かい側に座る彼の顔をじっと見つめる。目を伏せ暖かいカプチーノの入ったカップに口づける君。落ち着いていてお洒落なお店の雰囲気と彼の醸し出す静穏なオーラが見事なまでに調和していた。一緒にいると安心できて、何より僕のことをとても大切に思ってくれている大好きな人。彼――笠井くんと付き合い始めてもう1ヶ月が経つが、彼は良くも悪くも付き合う前と何も変わらなかった。僕の視線に気が付いた彼は、カップを置き不思議そうな顔をして言う。
「……俺の顔、なんかついてる?」
「ううん」
「……女顔だなって思った?」
「え? そんなこと、思ってないよ」
別に今特別そう思っていたわけではないけれど、彼はすごく綺麗な顔立ちをしている。常日頃から感じていたことを言われて上手く否めなかった。彼がそのことを気にしてるのを知っていたから。
「将は、嘘を付くのが下手なんだから」
彼はそう言って笑った。僕が嘘を付くのが下手なんじゃなくて、彼が僕の嘘を見破るのが上手いんじゃないかと思った。そして彼は僕の目をじっと見つめて続けた。
「……何か悩みでもある?」
またそうやって、僕がずっと表に出すまいとしていたことを簡単に言い当てるんだ。
「悩みの原因は笠井くんだよ」
……なんて、言えるわけがない。別に笠井くんがキスをしてくれないからだとか、抱き締めてくれないからだとか、手を握ってさえくれないからだなんてそんな子供っぽいことで悩んでるわけない、よ。何が言いたいかというと、彼には欲が無いのだ。そんな気がする。僕たちは付き合っているのだから性欲の一つや二つ発散してもらっても構わないよ、なんて思うけれど。……僕が飢えてるのかな。きっとまた顔に出てしまっていたのだろう、笠井くんが眉を下げる。
「……何かあるなら、言って?」
そう上目遣いで言ってくるものだから、かわいらしさに悶えながら半ばやけくそになって言う。
「言ってもいい?」
「うん」
決めた。僕は言ってやる。
心を落ち着けるために息を吐いた。どれを言葉にしようか少しだけ迷って、口を開く。
「…………」
が、詰まってしまった。後悔した。言おうとした言葉は、まだ恋愛経験の少ない自分には少し難易度が高すぎたのだ。黙りこくる僕を見て、笠井くんは少し考え込むような表情をしてから言った。
「……将、目閉じて」
「へ?」
「ちょっとだけ」
睫毛にゴミでも付いているのかと思い、僕は素直に目を閉じた。心地よい沈黙が流れる。聞こえるのはゆったりとしたお店のBGMだけで。瞼に彼の手が触れるのを待てば、思わぬところに感触を感じ驚いて目を開ける。そしたら、彼の整った綺麗な顔が目の前にあって。
「――キスしたいって、思ってたでしょ」
彼はそう言って、穢れなんか一つもない笑顔で笑った。そうして初めてキスされたんだと気付いた。
「本当に、なんでもお見通しだね」
真っ赤に蒸気する頬を両手で隠しながら僕は言った。超能力なんじゃないかとすら思う。
「……一応武蔵森のDFだからね。相手の考えてることはなんでもわかるよ。」
なんて、将専門だけど、と彼は笑った。これからも彼に隠し事はできないな、と思った。自然と顔が緩む。さっきまで悩んでいた自分が馬鹿みたいだ。
二人して見つめ合い、誰かが見ているかもしれないなんて気にせずどちらからともなく再び唇を重ねた。