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真田と将は、中学校からの付き合いである。

「それでね、てっきり兄貴だと思って応援がてら観に行ったら、まるっきり知らない人だったんだよ」
「相変わらず行動派だな、お前…」

陽も落ち、夜空に星の瞬きだした道を二人並んで帰る。未だ足の怪我のリハビリに通院している将はまた皆でコートを駆けるのを目指し今はサッカー部の一員として別メニューをこなしていた。そうして部活が終わったら、二人で家路につく。これが、ここ2ヶ月近くの真田と将の放課後である。

そう、二人は高校一年にして付き合いはじめたのだ。二人を知る特定の人物によれば『ようやく』らしいが、将にとっては未だに信じがたい状況であった。出会いは最悪なものだったし、嫌われているとさえ思っていた。それが選抜入りを果たし、時間を掛けてお互いを理解していったのだが高校に入っても将は恋だの愛だのに目覚める様子もなく、とんでもなく鈍い彼にそれこそ七転八倒で真田は想いを実らせた。真田ももともとはそういったことに興味がなく結構鈍いため、例の親友二人があれこれ後押しをしてくれたのだが―――これは割愛する。


とにかくそんな経緯で二人が恋人同士になって、もうじき2ヶ月だ。たまの軽い口論以外は仲良く過ごしてきている。彼と付き合うというのは、将が想像した以上に楽しかった。
一緒に帰り、おしゃべりして、休日にたまに出かける。何度か手をつないだが、それはいまだに慣れない。総合的に、2ヶ月弱段階の今、将の心情はこうだった。

(なぁんだ、なにをあんなに恐がってたんだろう?真田くんのことが好きで、こうして一緒にいられるようになって…今すごく幸せだ)

すっかり安堵して、将は満ち足りていた。一方で、真田は最近ときたま焦燥感にかられだしていた。楽しそうに話している隣の彼をちらと見下ろして、その屈託ない笑顔にきゅんとする。と同時に、その屈託なさがじれったく歯痒く感じることがある。

本当は今だって手をつないで帰りたい。その小さな手を包み込んで、二人は恋人同士なのだと、彼は俺のものなのだと周りの奴らに知らしめたい。

それに、そう、そろそろ―――次の段階に進みたいと思っていた。ふとしたときに、自分のそれより赤みの強い、やわらかそうなそれを思い浮べる。初めこそそのたびに羞恥にみまわれて振り払っていたが、今では切実な想いすら秘めながら脳裏に思い浮べていた。

将のくちびるを奪いたい。


(けど、絶対こいつ怖がるよな…)

それが恐ろしい。今将が幸せそうで、満足してくれているのが分かるから。それを危険に曝してまで、己の欲望を解放することはできなかった。

「ねぇ、真田くん聞いてる?」
「ん…聞いてねぇ」
「なにそれ」

そう言って苦笑する将が愛おしい。小柄なために見上げてくる、一生懸命な顔。今ここで抱きしめて、口付けて、自分のものにしてしまいたい。

「兄貴がホストやめて俳優になった話だろ」
「…それはとっくに終わったよ真田くん」

軽口をたたきながら、羽虫が集る外灯の下を将の歩調に合わせてゆったりと歩く。
今日も手をにぎることもできず、ズボンのポケットに突っ込んでいる。そんな自分を、いびつに満ちた明るい月が笑っているような気が、ほんの少しした。




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