CP
□変わらないこと
1ページ/1ページ
「翼さん、早く!」
お気に入りのブーツを履きながら鏡の前で髪の毛をいじくっている彼をせかす。
「将、お前はしゃぎすぎ」
そう言いながらも柔らかく笑ってくれる彼が好き。今日はお互いにオフの日なので一緒に買い物に行くことになっている。久しぶりの外出に心をときめかせながら、僕は翼さんの車に乗り込んだ。
車内に流れる明るい音楽、いつも決まって流れるその曲の優しい音色がとても心地好くて目を閉じる。洋楽に詳しいわけではないけれど、翼さんが好きな曲というだけで僕にとって特別な曲だ。数十分後、大型ショッピングモールに着いた僕たちはお店をあちこち見て回り、買い物を楽しんだ。
「ちょっと買いすぎちゃったかな」
沢山の紙袋を抱えながら少しだけ後悔する。でも、誘惑には勝てないのが人の性。
「買いすぎだ、ばか」
お前はもっと自分を大事にしろ、と彼は呆れた表情で言い僕の手から紙袋を奪い取った。しかしその手にはすでに自分の分の紙袋が握られていて。
「自分で持てます」
「身体に負担かけたら駄目でしょ」
そう言って軽くデコピンされてしまった。だけど僕を見つめる彼の瞳はとても優しくて、そういう不器用な優しさは昔から変わってないなと思わず笑ってしまう。
「何笑ってるの」
翼さんは怪訝そうな顔をする。
「なんでもないです」
そう緩んだままの顔で言えば、翼さんはなんだこいつはとでも言いたげな表情を浮かべた。そしてふっと遠くを見つめ、ポツリと言う。
「将は変わったな」
翼さんは変わってないなと思っていたところにそう言われたから、心を読まれたのかとドキッとする。
「そうですか?」
「うん、前よりもっと明るくなった」
それが本当かどうかは分からないけれど、全く自覚は無かったから驚いてしまう。ここ数年ずっと幸せだったからかな。まあ、明るい方に変わるのなら嬉しいことだ。
「翼さんは変わりませんね」
「そう?」
一瞬、何か柔らかいものが唇に触れた。瞬きもできずに驚いていると間近にあった翼さんの顔がニンマリと綺麗な笑みを浮かべた。
「昔はこんなことしたくてもできなかった」
「え…え?!」
だんだん何が起きたのか理解すると同時にいたたまれなくなってくる。
「…ほら、将置いてくよ」
そんな言葉とは裏腹にしっかりと握られた手。外ではダメっていつも言ってるのに、とか言いたいことはたくさんあるけど妙に楽しそうな彼の横顔を見てたら何も言えない。
やっぱり、何年経ってもこの人には敵わないなぁなんて思いながらそっとその手を握り返した。
.