CP

□無防備
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柔らかで温かな身体を抱き締めていることに気づいた瞬間、僕は舌を噛み切りそうになった。
慌てて起き上がった勢いでベッドが大きく弾み、将を落っことしそうになって更に慌てた。
穏やかな寝息を乱さないように、注意深く引き寄せて布団を掛け直してやる。
僕は出来るだけベッドの端に身体を寄せて深く息を吐いた。
床に投げ出したままのレンタルショップの袋を見やって事の発端を思い出す。
だけどどうしてこの状況……同じベッドに僕と将……になったのかは記憶が曖昧だ。
お互い服は着ていたのでとりあえずセーフ……いや、この考えがアウト。

最近、心配ごとが多過ぎてロクに眠れていなかった。
どうやら家に戻って気が抜けてしまったらしい。
その原因である当の本人は、マイペースな眠りを崩さず身じろぎひとつしない。
こいつは怪我の治療にドイツへと渡り何年かしてやっと帰ってきたかと思えば、変わったのは体だけではなかったようで以前のように僕を頼らなくなり、肝心なことを話さなくなった。そんなに器用でもないくせに、トラブルに巻き込まれてもひとりで解決しようと抱えこんで……

僕は、眠る将の顔を見た。きっと、ものすごく疲れてたんだな。
こんなにゆっくりこいつの顔を見るのは久しぶりかもしれない。
寝顔なんて何年ぶりか。昔はよく一緒に昼寝してたのに。
自分たちの距離感を改めて知って複雑な気持ちになった。

いつだって、思い出すのは遊び疲れた夏の日だ。
目一杯フットサルをして将の家で昼飯を食べてから眠気に誘われるまま一枚のタオルケットを半分ずつにして眠った。
じりじりと鳴く蝉の声を夢うつつで聞いて。
熱っぽい身体に扇風機の風が気持ち良くて。
顔についた畳の跡を笑い合ったりして。

艶やかな髪がすべるこのなめらかな頬に、そんな跡がつくことはもう無いんだろうか。
瞼を縁取る睫毛も、寝息を立てる薄く開いた唇も、布団を握りしめる細い指も、あの頃とは全然違う。
そんな風に思ったら居たたまれなくなった。
僕の知らないところで誰かを好きになって、僕の知らない人間になっていくなんて、あっていい訳ないだろ。

(無防備に寝やがってバーカバーカ!)

いっそ僕が男だって思い知らせてやろうかと凄んでみたけど、泣き顔を想像しただけで落ち込んだ。
一番のバカは僕だ。無性に腹が立ってきたので不貞寝を決め込むことにした。
何故だか、ここに無いはずの畳の香りが漂ったような気がして胸がざわつく。

なあ、将。
目覚めたとき僕のこと男だって意識して少しは焦ろよ、バカ。






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