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□点
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「若菜くんの弱点って何?」
風呂上がりにラウンジでほっとひと息ついていたら、風祭が突然こんなことを言った。そんなこと生まれてから一度も訊かれたことがなかったから返答に困った。
多分風祭は俺のことを何でもできる人間だと思ってるんだろう。いやべつに自惚れとかではなく…まああながち間違ってもないけど、なんて。
「何、そんなに俺のことが知りたいんだ」
そう言ってフフッと笑うと風祭はすぐに真っ赤になって否定した。そういう仕草もいちいちかわいくてギュッと抱き締めたい衝動に駆られる。
まあそれは後の楽しみってことでとっておいて、この機会を利用して鈍い風祭に分かりやすくアタックしてやろうかなと思った。
で、いいことを思い付く。やばい、今すごくニヤニヤしてる。
「タダでは教えられないなあー」
ニヤニヤを抑えきれないままそう言うと、風祭はあからさまに不満げな顔をした。うわ楽しい。
「そうだな、風祭が俺にキスしてくれたら」
「あ、それならいいです」
秒速かよ!と思わず叫んだ。この子はなんだっていつも割と本気で言ってるときの俺の言葉を嘘と見なすのだろう。今の冗談じゃないんだけど割と。
その上、どうせピーマンが苦手なんでしょなんて言われた。俺は子供か。まあこんな酷い扱いをするのもそれだけ心を開いてくれてるってことなんだろう。多分。
「あ、そういえば」
中村コーチが若菜くんのこと探してたよ、と彼は言った。身に覚えがなく俺何かしたっけ?と聞けば、今度の親睦会のことで探していたらしい。やばいそういえばそんな話したかもしれない。忘れてた。
「……ちょっと行ってくるわ」
もっと風祭の顔を見ていたかったけど仕方がない。心底名残惜しく感じながらのそりと立ち上がる。部屋を出ようとドアに手をかけたとき、風祭が若菜くん、と俺の名前を呼んだ。
「ん?」
振り向けば行儀よく正座して真っ直ぐにこちらを見上げる風祭がいて、どちらのお人形さんですかと思えば。
「終わったら、続きね」
そう言ってニコリと控えめに笑った。顔が緩んだ。ちょっとそんな顔するとマジでチューしちゃうからやめて。俺の大脳辺縁系と大脳新皮質が激しい戦いを繰り広げる。
「おう」
なんとか新皮質率いる理性が勝利した
「……本当、風祭には弱いんだよなあ」
顔が熱くなるのを感じながら、風祭に聞こえないようにひっそりと呟いた。
そしたら風祭が何か言った?と阿呆みたいな顔をするから俺は、お前はかわいいなって笑った。
そしたら風祭は何か言おうと口を開いたけれど結局それが言葉として出てくることはなくただパクパクと開閉を繰り返す様子にだらしなく頬が弛むのを感じながら足早に部屋を出た。
「弱点、か……」
まだ緩む顔をピシッと引き締めつつ呟く。あるとしたらそれは、君。
あんまりかわいいことされると、今以上にもっと風祭以外のものが見えなくなってしまう気がして、少しだけ怖いんだ。
我ながら、惚れすぎ。
(風祭のためならどんな悪いこともしてしまいそうだ)
(なんて、笑えねー)
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