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□弱
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「俺の弱点?」
そう言うと若菜くんはキョトンとした顔で僕を見た。
「うん、何か無いのかなと思って」
「何、そんなに俺のことが知りたいんだ?」
「そ……そういうんじゃなくて!」
若菜くんがニヤニヤしながら言うから、慌てて否定する。本当に深い意味は無くて、ただ、完璧に見える若菜くんにも何か苦手な物があるのかなと思い訊いてみたのだった。
そして若菜くんは少し考えるようにうーん、と顎に手を当ててから、口を開いた。
「タダでは教えられないなあー」
若菜くんがニヤリと笑う。持ち前の綺麗な顔でこんな笑い方をされたらなんだか色っぽくてドキドキしてしまう。
しかし何か交換条件でも出されるのだろうか、ちょっと嫌な予感がする。
「そうだな、風祭が俺にキスしてくれたら」
「あ、それならいいや」
ニコニコ笑顔でおかしなことを言い出す人がいたので右手を上げて制止した。
「秒速かよ!」
若菜くんは、お母さんに歯の浮くような愛の言葉を囁くお父さんを目撃した時みたいな表情をした。
「どうせピーマンとかでしょう?」
「風祭、俺のこと馬鹿にしてるでしょ」
「してないよ」
誰がどう見ても分かる嘘をついた。酷いな風祭はーなんてブツブツ呟きながらわざとらしく唇を尖らせている若菜くんを尻目に、ミルクティーを口に含む。
「あ、そういえば」
ふと思い出すことがあったので口を開く。
「中村コーチが、若菜くんのこと探してたよ」
「え、俺なんかしたっけ」
「今度の親睦会がどうとか」
「あ!やっべ」若菜くんはゲッと顔を曇らせた。
「……ちょっと行ってくるわ」
「いってらっしゃい」
若菜くんが胡座をほどいて立ち上がる。
その姿を見ながらああもう少し話していたかったな、なんて思った。若菜くんといる時はいつだって素の自分でいられてすごく楽しくて、いつも時が経つのが早く感じるんだ。背中が遠くなっていくのがなんだか名残惜しかったので声をかけてみる。
「若菜くん!」
「ん?」
「終わったら続き、ね」
そう言うと若菜くんはニコリと笑っておう、と言ってくれた。その頬はちょっとだけ赤く染まっていた気がして。
「……本当、風祭には弱いんだよなあ」
「え?何か言った?」
「……いや、風祭はかわいいなって」
「な…っ」
そういうことは気軽に言っちゃダメだよ、とかそもそも僕は男なんだから、とか言いたいことはたくさんあったけど結局何も言えずにいる僕に、若菜くんは可笑しそうにククク、と笑って足早に部屋を出ていってしまった。
本当に、どこまで本気なのか分からない人だ。
「まさかそんな人を好きになっちゃうなんて」
一人になった部屋で、火照る頬を両手で包み込みながらポツリと呟いた。
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