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□語学
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テスト期間である。

普段はサッカーに全身全霊を捧げる彼らも所詮まだ中学生、義務教育真っ只中である。

そんなこんなで東京選抜の面々は練習の合間をぬって地道にコツコツと勉強していた。





「なあ、この中で英語得意な人いるー?」


「…突然どうしたんだ?」

唐突な藤代の質問に皆揃って首を傾げる中、溜め息混じりに渋沢が口を開いた


「やー俺ら何で英語とかやんなきゃいけないンスかねー。意味わかんないス」

「あーたしかに俺ら日本人だし、日本語しゃべれればそれでいいよな」

呆れ顔の渋沢が諭す前にグダグダと椅子に寄りかかる桜庭が藤代に同意する。


「そんなことないデショ。俺達の場合海外行ったり外国人選手とコミュニケーションとる機会も人より多いわけだし、やって損はないと思うけど。」

英単語帳を捲る手を止めずに涼しい顔した郭がさらりと言う。

それには他人事でないと気づいた周りの連中もみるみる青ざめていき、悲鳴が上がる。



まあ、でもまったくその通りだ。
むしろ俺らはサッカーをやってく上で英語はある意味必須条件になるだろう。


うんうんと納得していると藤代が不服そうな声でえ〜、と叫ぶ。


「俺、英語なんてkick offしかわかんないよ〜風祭は?」

「ぼ、僕?・・・This is a penとか?」

「俺もー。あ、後はAre you a desk?とかか?」



藤代、風祭、若菜の三人はなんとも偏った言語力を披露していた。
藤代は論外。
風祭は教科書丸暗記な上に覚えている文章に実用性が皆無だ。
若菜に至っては、文章構成は間違っていないが言っている内容が酷い。

あなたは机ですか、ってどんないじめだよ・・・・・



「俺喋れるぞ」

そんなメンバーの中で一人だるそうに手を挙げたのは水野だ。
水野は一応選抜内の中では頭脳派で、性格的には少し情けないところがあるが、技能の面では優秀だ。
そんな水野が言語力に長けていたとしても何ら不思議ではない・・・・・・ハズなのだが


「お前が・・・!?」

「どうせ嘘デショ」

「何そのどや顔腹立つ」

上原、郭、杉原の率直な感想だ。
散々な言われようである。

地道に落ち込む水野の肩を間宮が慰めるようにぽん、と叩く。


「翼さんは?」

水野から離れて風祭が椎名にどこか期待に満ちた視線を送って問う。

それには先程から我関せずと集中して勉強を続けていた椎名もその手を止め、あの不適な笑みを浮かべる。

「愚問だね」

ニコニコと綺麗な笑みで風祭の肩に手をまわして覗き込むその様子に隣にいた畑と黒川はひきつった笑みを浮かべてそそくさとその場を離れる

「あとスペイン語とロシア語も出来るかな」




一瞬、部屋のあちこちで雑談していた仲間の声がピタリと止まり、次の瞬間には凄い勢いで椎名の方を振り向いた。

「凄いじゃないですか翼さん!!」

「マジ!?」

「お前・・・っ!?」


風祭、藤代、水野がそれぞれ感嘆の声をあげる。


「凄えな・・・」

「だな、一馬も見習えって。ヒンドゥー語でもやってみたらどうだ?」

「結人に言われたくねえし。さっきの英文・・・あなたは机かって聞いて、はいって答えられたらどうする気だよ」

「一馬、突っ込むトコ間違ってるよ・・・・」

その横で少しずれた会話を繰り広げる若菜と真田に郭がツッコミを入れる。



ミーティングが終わり、各自部屋を出ていく。
風祭も席を立ち、出口へと向かった。


「将!」

「?…なんですか翼さ…」

「Я люблю вы」

「え…?今なんて……」
「行くぞ、将。そろそろ時間だぞ」

何と言ったのか聞き返そうとしたが、いつもの不敵な笑顔と、迫る時間によって誤魔化されてしまう。


この時、もしも風祭が少しでもロシア語を理解できていたのなら、きっとサッカーどころではなくなっていただろう。





――Я люблю вы
――(君が好きだよ)





(伝わらないのはわかってるけど、どうしても言いたかったんだ)

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