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□ひっそり一周年記念小説
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「将のこと、好きでいることに決めたから」

それは深夜に将と自主練から部屋に戻ってきたときのことだった。
マサキと六助は宿舎を脱け出してどこかへ行っているからこの部屋には二人しかいない。
突然の告白に当の本人は意味が理解出来ないのか、パチパチと眠たそうな目を瞬かせている。

「何ですか急に・・・?」
「何って、愛の告白?」

こちらは至って真剣なんだけど、将は欠伸を噛み殺して困ったように笑った。
あ、これは冗談だと思ってる。

「いきなり何言い出すかと思ったら…冗談ですか」

あぁ、ほらやっぱり。
そういう冗談はやめてください、なんて顔も見ないで言われたらさすがにちょっと傷付くんだけど。

「僕は本気だよ」
「はいはい、それより早く寝たほうがいいですよ、明日起きれませんから」

ちょっとくらい分かって欲しくて返した言葉も適当にあしらわれて。
今夜はこれ以上言っても無駄だと思い口をつぐんだ。


「どうしてわかってくれないかなぁ」
「人をからかって楽しむ気持ちなんかわかりません」

それから毎日。
隙を見つけては将に愛の言葉を囁いてはみているけれど、いつも相手にしてくれない。
たった今も、今日何度目かの告白劇を繰り広げてみたもののあっさりはぐらかされてしまった。
上水と飛葉で対戦したあの日からずっと、ずっと好きだったというのにどうして信じてくれないんだろうね。
最初は隠しておくつもりだった。
同性にそんな事言われても困るだけだろうし。
もしかしたら気の迷いかもしれないって思っていた。
でもその気持ちは時が経っても、状況が変わっても消えることはなかった。
最初は年上だからかどこか遠慮しているような、よそよそしさがあった。
それがだんだんだんだん仲良くなって…あいつは元々人懐っこいから友達は大勢いるけど、それでも自分を慕ってくれてるのがわかって嬉しかった。

それでつい、今まで燻っていた気持ちが抑え切れなくなり、あの日あんな言葉を掛けてしまったのだ。

この気持ちを否定されるのは仕方がない。
けれど冗談だと思われたままでは報われない。
ちゃんとわかってもらえるように言葉に持てる全ての真剣さを乗せてみたり、行動に起こしてみたりもした。
だけど将の態度は一向に変わることはなかった。
そんなある日のことだった。

「将、好きだよ」
「まだ飽きないんですか…」
「飽きないよ、まだまだ言い足りないくらいだ」

今日もまた、届かない愛の告白を繰り返す。
将は呆れ顔でホットミルクを啜っているけれど、言い足りないというのは本心だ。
思い続けた時間に比べれば、口に出した言葉はあまりに少ない。
この思いは、将が想像以上に年季が入っているのだから。

「お前がどう思うと、僕は本気だし、好きでいるから」
「も・・・もう、勝手にしてください・・・」

カタンとコップを置いて将は立ち上がった。
いつも冗談だと笑うくせに、初めて見せた違う反応に心臓がばくばくと音を立てる。

「それはプラスにとっていいわけ?」

部屋を出て行く背中に、少し震えた声で投げかけても返事はなかった。
ただ、ちらりと覗いた耳が赤く見えたのは気のせいだろうか?

それから将があからさまに以前と違う反応を示すようになった。
好きだよと告げれば困ったように顔をしかめるようになり、二人きりになった瞬間口を閉ざしてしまうようになった。
なんだか妙に意識されているような、そんな感じだ。
将と名前を呼ぶと、一拍置いてから振り返る。
その様子にひとつの確信を持って向かい側に座った。
あの日と同じ、深夜、二人っきりの部屋で。
キョロキョロと視線をさまよわせる将の顔を真っ直ぐ見つめる。
頬がほんのりと赤いのは、自惚れじゃないはずだ。
いつもただただ無邪気な将の意外な一面にどきりとしながら平静を装う。
カップに手を伸ばそうとした手に自分の手を重ねた。
それを追って落ちた視線を、顎を掬ってこちらに戻す。

「そろそろYesを聞かせてよ」

とびきり甘く、優しく、自分でもこんな声が出せるのかと驚くほどに。
目で訴えるように将を見つめると、ぎゅっと綺麗な瞳が閉じられた。

「つ、翼さんは、ズルイ・・・ですよ」

触れ合った手が絡められ、やんわりと力を込められて、ようやく気持ちが通じたと実感が出来た。
長い睫毛がふるりと震えるのが新鮮で、絡められた指に力を込めて唇を重ねた。
一生重なることのないと思っていた唇は、今まで経験したことがないくらいに甘かった。

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