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□純粋?いやいやただのヘタレです。
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今日は桜上水サッカー部のメンバーで同窓会があった。
風祭たちの代表入りのお祝いを兼ねて久しぶりに全員で宴会でもしようじゃないかという高井の提案だ。
明日は休みで少しくらい遅くなっても問題はない。
となれば少しくらい羽目を外してしまうのは、仕方のないことだろう。

ほとんどの者がアルコールが回りグダグダになってきた頃に自然とお開きになった。

フワフワと浮ついた足取りでみんなが立ち上がる中、風祭はいつまで経っても立ち上がる様子がない。
心配になった水野が声を掛けて顔を覗き込む。

「風祭、大丈夫か?」
「う、・・・ん?」

むにゃむにゃと言葉にならない声を紡いで、机に突っ伏しそうになる風祭の肩を水野が起こす。

「ほら、帰るぞ」

そう言っても立ち上がろうという気配はない。
仕方なく腕を自分の首に回し立ち上がらせる。
辛うじて意識はあるようだが、歩くことさえままならないようだ。

「水野、カザの介抱は頼んだわよ」
「上手くやるんやで」

先に出て行っていた小島とシゲが部屋を見てクスクスと笑う。
上手くやれって、どういうことだ。
言葉を返そうと二人を睨むとシゲがヒラヒラと手を振る。

「邪魔者はさっさと消えてやるさかい」
「ちょ、待て」
「いい報告を待っているで」

水野の制止も虚しく二人は去ってしまった。
風祭を抱えながら水野は途方に暮れる。
ちらりと少し下を見遣ると、頬を赤く染めた風祭の顔があって酔ってもないのに水野の顔が赤くなる。
風祭の家に行って、置いて帰ればいいだけだ。
しかしそれだけだと何だか惜しい気がして、水野はタクシーに乗り込んだ。
行き先に自分の家を指定して。

いくら細いとはいえ、風祭をベッドまで運ぶのはなかなかの労力を要した。
ベッドの上ですぴすぴと寝息を立てる風祭の髪をそっと撫でる。
一瞬気持ち良さそうに微笑まれて、どきりとしてしまった。
寝やすいようにと服を楽にしてやり、風呂に入ろうと水野が歩こうとしたとき服をぎゅっと掴まれた。

「行かないで・・・」

か細い声ではあったが、静まり返った部屋でははっきりと聞こえた。
風祭が水野と意識して言ったのかは分からない。
そもそも今の風祭にしっかりとした意思があったかどうかも怪しい。
しかし風祭にそんなこと言われて水野に振り切れる訳もなかった。

(風祭は酔っている、風祭は酔っている)

ぶつぶつと自分に言い聞かせるように繰り返して、水野も風祭と同じベッドに入った。
それだけで安心したように笑うなんてずるい。
勘違い、してしまいそうになる。
あらぬ考えを起こさないように風祭と逆の方向を向いてきつく目を閉じる。
酔ってぼんやりとした話し方が可愛い、赤い頬にどきどきしてしまう。
忘れようと思えば思うほど、鮮明に思い出してしまうのはなぜだろうか。
そうこうしている内にうとうとと、水野の意識がまどろみ始めた。
背中がなんだか温かい。
事態を忘れてごろりと寝返りをうって、自分の置かれている状態を思い出した。
叫びそうになった口を慌てて手で押さえて留める。
目の前で風祭がすやすやと眠っていたら、意識もばっちり覚醒してしまう。
そろり、サイドテーブルにある時計を見るとまだ真夜中だ。
朝までまだ随分と時間がある。
またこの幸せなようでこの上ない苦行に耐えなければならないのか。
もう一度風祭の方に目をやると、ぐっすりと熟睡しているようで目覚める気配はない。

(ちょっと、ほんのちょっとだけだ)

なんとなく罪悪感を感じて風祭から目を逸らす。
それから風祭の両手を自分の両手でしっかりと包み込んだ。
酔っているせいか、子供のように温かい。
水野が幸福感と罪悪感の狭間でゆらゆら揺れていると、風祭がんっと身じろいだ。
慌ててその手を離して、もう一度逆の方を向き目を閉じる。
少し触れたから満足出来たのか、今度は程なくして水野も寝息を立て始めた。


後日、シゲがニタニタと笑いながら水野に電話してきた。

「で、どうやった?カザと二人っきりの一夜は」
「・・・我慢し切れずに、触っちまった・・・」

ついに水野も男を上げたかと意気込んで話を聞いたシゲが、心底呆れた顔をするのはそれから5分後のことだった。

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