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□焦るくらいなら言うな
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「別に風祭なんて好きじゃねぇし」

からかわれてムキになって言ってから後悔したって後の祭りだ。
ドアを開いたところで一瞬見開いてから悲しそうに目を伏せる風祭の姿が目に入った。
からかってたはずの結人がしまったという顔をしている。
風祭、と呼び掛ける前に閉まったドアに真田の声は遮られてしまった。

「やばいな」

風祭の悲しそうな顔を思い出して真田が頭を抱える。
風祭と付き合い始めて一ヶ月。
好きなら言葉で伝えて、態度で示してと言われたのはつい先日のことだ。
いくら僕でも少しは傷付くんだよとも言っていた。
少しは素直にならなければ、そう思っていた矢先にこれだ。

気まずい気持ちを抱えながら談話室にいた風祭に声を掛ける。

「風祭、そのさっきは、」
「真田くんは僕なんて好きじゃないでしょ?」

だったら構わないでと立ち上がる。
そしてそのまま足早に自分の部屋に入ってしまった。
中からカチャリと鍵を閉める音が聞こえてふーっとため息をひとつ。
すり抜けるときに見た風祭の横顔は完全に怒っている表情でどうしたものかと頭を抱えてしまう。
何か話そうにも聞いてくれる雰囲気はない。
そういえば自分も風祭に対してこんなことをしたなぁとふと思い出した。
あのとき風祭はこんな気持ちだったのかと思うと申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
しかし解決策は見出だせず、とりあえず今日はこのまま放っておこう。
明日になれば風祭の機嫌も直るかもしれないし。
そう考えて部屋に向かった。


風呂に入り、ベッドの上に横になる。一人用のベッドなのにやけに広く感じてしまう。
いつも繋がれる指先の置場がわからなくてシーツをギュッと握った。
いつも当然のように隣にいて、いつのまにかそれが当たり前になっていた。
でも今やっとわかった。風祭のことがどうしようもなく好きなんだと実感が湧いた。
明日朝会ったら一番に謝ろう。それから、ちゃんと気持ちを伝える努力をしよう。
そう心に決めて眠りついた。

翌朝、目覚めて食堂に行くと風祭が一人で朝食を取っていた。
遠慮がちにおはようと言っても返事はない。
残念ながら機嫌は直っていないようだった。
向かい合って話すために正面に座ると風祭が食器を持って立ち上がった。
歩き出しそうな腕を掴んで無理矢理立ち止まらせると不機嫌そうな風祭と目が合った。

「何?」
「昨日は悪かった」
「好きじゃないなら無理に謝らなくていいよ」

風祭の言葉の端々に棘を感じる。
それでもちゃんと伝えなければならないんだ。

「俺はちゃんとお前が好きだ」
「ちゃんとって、何?」

即座に切り返されて思わず口ごもってしまう。
好きだとさえ言えれば風祭は機嫌を直してくれると信じ込んでいた。
言えないの?と風祭がイライラした口調で急かせてくる。
口で言っても伝わらないならば行動に出るしかない。
掴んだ腕を一瞬離して指を絡める。

「・・・真田くん?」

呼び掛ける声も無視して風祭を抱きしめた。
息を吸い込んだら風祭の匂いがして安心した。

「意地悪してごめん」

ふわりと体を抱きつかれた。

「でも昨日のは本当にショックだったんだよ」
「それは本当に悪かった・・・ごめん」
「いいよ、真田くんが分かってくれたなら」

漸く腕を解放されて見上げた顔はニコリと笑っていて、唇を指差された。

「仲直りの印にキスしてよ」

今までなら突っぱねるところだけど今日からは違う。
示された唇に自分のそれをそっと押し当てると風祭が満足げに笑った。
その顔が嬉しくてもう一度抱き締めた。

「一人で飯食うのって寂しいんだな」
「何、昨日寂しかったの?」

茶化すように聞いてくる風祭にうんと頷くと風祭が目を見開いた。

「じゃあ今日は一緒に食べよう」
「お前さっき食べたんじゃねーの?」
「真田くんが食べるのをじっと見てるよ」
「・・・バーカ」

つい出た言葉は可愛げのあるものではなかったけど、風祭はくすくすと笑っている。

「たまには素直がいいけど、やっぱり真田くんはこうがいいよ」
「何だよそれ」

二人で笑い合ってもう一度唇を重ねた。
これからはもっと自分に素直になろう、そう心に決めて風祭の手に指を絡めた。

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