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□素直じゃないキミ
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五億回の瞬き

「ねぇ、知ってる?」

日生がそう問い掛けてきたのは二人並んで屋上から星を眺めているときだった。

「何を?」
「人は死ぬまでに、五億回の瞬きをするらしいよ」

突然何の話だと開きかけた口に日生の人差し指が触れる。
黙って聞いて、真っ直ぐな目がそう訴える。

「その五億回の中で、一番多く見るのが将だったらいいなと思うんだ」

真剣な表情で言われて、風祭は顔が赤らむのが分かった。
何それ、と呟いてそっぽを向いたのは嬉しかったからだ。
それを分かっている日生が嬉しそうに笑って腕を腰に巻きつけてきた。

「嬉しい?」
「・・・嬉しくない」
「素直じゃないね」

日生はそう言って自分より少しだけ低い位置にある首筋にキスを落とす。
月明かりに照らされて、ほんのり赤くなった白い肌に思わず苦笑い。

「素直になってよ」

風祭の肩に顔を乗せて、回した腕に力を込めて、耳元で低く囁く。
びくりと肩が揺れたのは、風祭がこの声が好きだからだ。
それを知っていて、日生が促すよう名前を呼ぶ。

「将」
「・・・・・・も」

風祭が何か言ったが小さくて聞こえない。
日生が伺うように顔を覗き込むと、少しむっとした表情で風祭が言った。

「僕もだよ」

ぶっきらぼうに言い放たれた言葉は日生の予想とは全く違っていて。
思わず目を瞬かせると、風祭は恥ずかしそうに目を反らした。
素直になってとは言ったけれど、返って来たものは想像以上だ。
思わず顔がだらしなくなる。


「将、好きだよ」

「恥ずかしい…」

素直になってくれたのは、一瞬だけだったか。
日生が残念そうに風祭の髪を指で弄る。
きらきらと月夜に反射する髪がとても綺麗だ。

「そろそろ帰ろうか」

もう少し月夜に照らされる風祭を見ていたかったが、ここに来て随分な時間が経ってしまっている。
腕を離して、右手で風祭の左手を取りぎゅっと握る。
日生が一歩踏み出すと、素直に風祭も歩き出した。
階段のドアを開こうとしたとき、風祭が突然距離を一歩詰めた。

「僕だって日生くんのこと、」

好き。
ぼそりと呟かれた普段なら聞けないような言葉にぽかんとしてしまう。
恥ずかしそうに目を伏せる風祭を、とりあえず今すぐ抱き締めよう。
 

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