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□愛ゆえに!
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「コンコンコンコン」
小十郎はリズミカルに包丁を動かし、自身が丹精込めて自宅のベランダで栽培したネギを刻んでいく。
キッチンに小気味好い音が鳴り響く。
8階建マンションの最上階2LDKで暮らす窓からは朝日がさし、部屋全体を照らしだす。
閑静な住宅街で、周りに高層マンションが建っている訳ではないので、景色は充分良い。
なによりベランダは日当たり良好しかも兎に角広い!とくれば家庭栽培(といっても腕前はかなりハイレベル)ができる物件を第一条件に探していた小十郎が一目みて気に入ったのは言うまでもない。
グツグツと煮えたった鍋に味噌を入れ、かき混ぜ火を消す。先ほど刻んだネギを入れれば朝ごはんの用意は終わった。
いつもこのタイミングで時計をチラリと確認し、プレイヤーにiPodを差し込む。
そして朝専用BGMを流す。
音楽は朝に相応しい心地良さがあり、軽快な、ワクワクした気持ちにしてくれる。
部屋全体に心地いい音量で部屋全体を包む。
このBGMは別に小十郎の趣味ではない。
しかも、つい1週間前からすることになった習慣だ。
ではなぜ急にガラでもないBGMをながすのか…。
今、小十郎は
リビングをでている。廊下を挟んで向かい合った自身の部屋の扉とは逆の扉を腕を組んで睨んでいる。
ひとつ溜め息を漏らしノックをすると
低く
柔らかい
口調で
「 …おいドリーム設定。朝だ。そろそろ起きろ。」
…数秒まっても何も返事はない。
(朝は忙しいってぇーのに!)
先ほどの落ち着いた物腰はどこえやら。
イライラした小十郎は思いっ切り扉を開け部屋の中に体を滑りこました。
中に入ると甘いお香の香りが鼻を優しくなる。
小十郎の目を捉えたのは
ベットの上でスースーと寝息をたてて布団に包まり、
天使の寝顔で幸せそうに丸まっているドリーム設定と呼ばれた少女。
少女は小十郎の妹である。
実は妹と言っても、あまり面識がなかった。
片倉家は代々、使えている主がいる。その主を如何なる時もサポートするために小十郎は幼き頃から体を鍛えたり、知識を深めたりと兎に角修行(習い事)に明け暮れていた。
小学生を卒業する頃には、主の元で本格的に修行するため家を出たのだ。
そこから年に数回だけ休みを頂いて実家に帰れるのだが、あるお盆に実家に帰ったとき聞き慣れない幼子の泣き声が久しぶりの我が家から聞こえた。
誰か親戚に子供が産まれ遊びに来てるのだろう…とぼんやり考えていたが、両親から紹介されたその産まれたばかりの幼子は自分の妹だという。
正直両親には呆れたが、日々の厳しい毎日を過ごす小十郎にとって自分の小さすぎる妹は癒しになった。
時間が過ぎるにつれ、小十郎は学業に修行に好き放題の主に振り回される日々で死ぬほど忙しくなり実家にも帰れない状態が何年も続いたのだった。
だから家にはあまり帰れず
それが片倉家に産まれた者としての運命。
(仕方ねぇ…)
小十郎はおもいっきり布団をめくりあげた!
「!!!」
小十郎はドリーム設定を見るとすぐに己の行動を後悔することになる。
こともあろうに、ドリーム設定はノーブラ&キャミソール。しかもボトムスは……ピンクのかわいいレースのパンツ姿。
急に寒くなった体をさらに丸めるドリーム設定は子猫のようだ。
「…う… ん…うーん…」
可愛いドリーム設定の透きとおる声が少し開かれた口から漏れる。
「…! さっさと起きやがれ!!」
低くドスの効いた声でそう叫ぶと、ドリーム設定はカッと大きな目をパチクリさせ飛び起きた。
「わぁっ!!!」
「ドリーム設定、早く着替えろ!んな格好でウロつくんじゃねぇー!!」
先ほどの格好のまま飛び起きたドリーム設定は何も気にすることなく洗面所に向かおうとしたのだ。
流石の小十郎の顔にはピキピキっと青筋が見えた。
大きく溜め息をつくと、眉間に手をあて頭を降るしかなかった…。
(たく。
朝からやってくれるぜ…。)
(こじゅ兄。朝から機嫌悪〜)