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□A vigil 3
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ナギは見張り台に立ち、眼下に船と、黒い海を見ていた。
時折雲から顔を出した月が、あたりを明るく照らしてゆく。
雲はその縁を月に照らされ、くっきりとした輪郭だけを浮かび上がらせていた。
(船に乗り始めた頃…この揺れが苦手だった)
僅かに風に煽られた波が、船を撫でてゆく。
ナギは周りを一望すると、見張り台を降りた。
*****
トントン、と船尾へ向かってくる足音がする。
ナギがその方を見ると、現れたのは○○○。
「…どうした?」
「…いえ、なんか眠れなくて。ナギさん、何してるんですか?」
○○○は胡座をかいているナギの手元を見る。
ランプに照らされたそれは、網。
「…ハヤテが穴を開けたからな」
「あ!この前の」
「ああ」
「…お裁縫、ですか?」
「…修理だ」
そう言うと、○○○は笑った。
「やっぱり、ナギさんは器用なんですね」
「普通だろ、こんなの」
○○○はその場にぺたり、と座り込んでしまった。
まあ、いいか。
ナギはそのまま作業を再開した。
細かい穴に一つ一つ、テグスを絡めていく。
「…暗く、無いですか?」
「?」
「明るい昼間なら、もっと見やすいんじゃないかって」
「昼間はそんな暇ねぇよ」
「あ!…そ、そっか」
ナギは昼間、ほとんど厨房に篭っていた。
3食全員分の食事を作るのだ。簡単ではない。
自分が間違っていたと思ったのか、怒られたと思ったのか。
○○○は塞ぎこんでしまった。
(…どうすっかな)
ナギはただ事実を言っただけで、他意は無かったのだが。
かける言葉を上手く見つけられないまま、ナギの作業は進む。
トン、と足音がする。
「…○○○ちゃん?」
見ると、ソウシが顔を出した。船尾に向かって来ていた。
「ドクター」
「ナギも一緒か。良かった、なかなか戻ってこないから」
「す、すいません!」
「いや、いいよ。眠れないのかい?」
「…はい」
そういえば、そんな事を言っていた。
「…何か、持ってきます」
ナギは立ち上がると、キッチンへ向かった。
○○○はソウシに任せておけば、大丈夫だろう。
*****
三人分のコップをトレーに乗せ。
船尾へ向かう階段を上ると、二人の姿が目に入る。
ソウシに頭を撫でられている○○○は、嬉しそうに笑っている。
それよりも驚いたのは、ソウシの顔。
(あんな顔するんだな…)
女性に向けるものなのか、○○○だけに向けるものなのか。
あまり見たことの無い表情は、とても穏やかで。
「…」
ナギは来た道を少し戻ると、トン!とわざと大き目の音を立てて歩いた。
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