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□cotton candy
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トワ
「やっぱり返してきましょうよ〜」

ハヤテ
「夕方までに返せば大丈夫だって!」

ハヤテがその手に持っているのは、わたあめ製造機。



ただいまシリウス号はヤマトに停泊中。

丁度夏祭りの季節とあって、島全体が賑わっている。


燦々と降り注ぐ太陽の日の下、ハヤテはそのわたあめ機を甲板に置いた。

どこから持ってきたのかというのは聞くまでも無い。

自分たちは海賊だ。

でもこれは、ちょっと借りただけ。とハヤテは言う。

ひょっとしたら、たった今わたあめ屋は大騒ぎしているかもしれないが。



ハヤテ
「えっと…これがスイッチか?」

パチン、とそれを押すと、ブンブンと音を立てて機械が動き始めた。

トワ
「なんかドキドキしてきました!」

ハヤテ
「だろ?俺、ナギ兄に材料貰ってくる!」

足取りも軽く、ハヤテは厨房へと向かった。




数分後。

トレーに材料を乗せてハヤテは戻ってきた。

ハヤテ
「もう少ししたら、ナギ兄も来るってよ」

トワ
「へえ、こういうので作るんですね」

トワは不思議そうに、その皿の上に乗ったものをスプーンでつついた。

ハヤテ
「ザラメっつーらしいぜ。砂糖の一つなんだと」

トワは一つまみそれを摘むと、口に入れる。

トワ
「あ、ホントだ。甘い」

トレーの上には、割り箸、ザラメ、そして水の入ったコップがあった。

ハヤテ
「おし!早速つくってみっか」

トワ
「え?ナギさんを待たないんですか?」

ハヤテ
「いつ来るかわかんねーし」

そう言ってイソイソと、ハヤテは割り箸をパチン、と割った。

ハヤテはまた、パチリとスイッチを入れる。

ハヤテ
「えっと、ここにザラメを入れるんだよな…」

タライのような機械の真ん中に、筒のようなものがある。

そこの空洞に、ハヤテはザラメをスプーンですくって入れた。

トワ
「うわ!」

ハヤテ
「すげー!!」

途端、ふわふわっとした白い雲のようなものが、その機械の中に溜まり始める。

トワ
「ハヤテさん!急いで急いで!!」

ハヤテ
「わかってるよ!」

ハヤテは割り箸でそれを取ろうとするが、うまくいかない。

トワ
「割り箸自体を回すんです!」

ハヤテ
「お、おう!」

くるくると回し始めると、わたあめは割り箸に絡まり始めた。

ハヤテ
「おお〜!!」

トワ
「うわあ!わたあめっぽい!」

あっという間に、それは割り箸に絡み付いていく。

ハヤテ
「おし、もっと大きく…」

ハヤテが更に割り箸を回した時だった。

すぽっ、と。

ハヤテ
「うわ!」

トワ
「抜けちゃいました!!」

割り箸からわたあめが抜けて、機械の中に落ちた。

ハヤテ
「んだよ」

ハヤテがわたあめ機の中に手を入れようとすると。

ハヤテ
「いってぇ!!」

バチバチと音を立てて、ハヤテは手を一気に引き抜いた。

トワは慌ててわたあめ機のスイッチを切った。

しゅんしゅんとゆっくりそれは回転をして、次第に止まった。

トワ
「大丈夫ですか?」

ハヤテ
「ああ、でもなんか、すんげーバチッて」

シン
「アホか」

丁度戻ってきたのだろうか、シンが呆れた顔でそこに立っていた。

ハヤテ
「ああ?」

シン
「高熱でザラメを溶かして、勢い良く飛ばしてるんだ。機械に手を入れたら、熱いし痛いに決まってるだろう」

ハヤテ
「…うっせーな」

シン
「それに作り方がなっていない。お前は昨日の縁日で何を見ていたんだ」

ハヤテ
「はあ?」

トワ
「割り箸でくるくるすればいいんじゃないんですか?」

シン
「揃いも揃って観察力が足りないな…。見ていろ」


シンはそこにある割り箸を手に取ると、二つに割った。

取り合えず、と機械にあるわたあめを全部つまみ取って、ハヤテの手に乗せる。

ハヤテとトワは、それをつまんで口に入れた。

おお、わたあめだな、という至極当然な感想と笑顔が漏れる。

その様子を横目で見ながら、シンは軽く息を吐いた。

割り箸を一本にし、それをまず水につける。

シン
「…いくぞ」

機械のスイッチをいれ、ザラメを入れる。

ふわ、とわたあめが機械の中に溜まり始めるのを見計らって、す、と割り箸を入れると。

くるくる、とそれを回し始めた。

機械の中心の筒の周りを回転させながら、割り箸自身も回転させる。

トワ
「あ!お店で確かにこうしてました!」

ハヤテ
「マジかよ…」

あっという間に、先ほどハヤテが作ったサイズのわたあめが出来た。

シンはそれを一端機械から取り出す。

トワ
「流石ですね」

シン
「…これからが本番だ」

ハヤテ
「?」

シン
「祭りで見たわたあめは、こんなサイズじゃなかっただろう?」

ニヤリ、と笑うと、シンはそのわたあめを握り始めた。

トワ
「わわ!!」

ハヤテ
「なにすんだよ!」

あっという間にそれは大きさをなくし、割り箸に少し硬そうな綿が絡まっているだけの様になる。

シンは、さっとまた機械の中央にザラメを入れる。

ふわ、と湧き上がったわたあめを、それでまた絡めだした。

シン
「まず、割り箸に水をつけることで割り箸からわたあめが抜けるのを防ぐ」

そう話しながらもどんどんわたあめは大きくなってゆく。

シン
「ある程度の大きさになったら、一端すぼめる。そうして芯を作る事で、より大きなものを作れるようになる」

何度かザラメを足し。

シン
「これが完成形だ」

ふわ、とシンが取り出したのは、屋台で見たわたあめそのもので。

シン
「こんなものか」

トワ
「うわあ!」

ハヤテ
「すげえ」

シンはその感嘆の声に、満足気に微笑んだ。

シン
「普段からもっと、物事を注意して見るようにするんだな」

そういうと立ち上がり、そのわたあめを持って部屋へと向かっていった。

ハヤテとトワは顔を見合わせる。

ハヤテ
「…なんだよ、あいつ自分が食いたかっただけか」

トワ
「でも、作り方教えてもらえましたし!」

ハヤテ
「…まあな。でもなんかムカつく」

ナギ
「どうした。もうやらないのか」

トントン、とナギが手に何か持ってやってきた。

ハヤテ
「ナギ兄、なんだ?それ」

ナギ
「色つきわたあめの原料」

トワ
「え!」

ナギ
「食紅だ。おら、やるぞ」

ハヤテ
「おう!すんげーの作ってやるぜ!」

トワ
「次、僕がやりたいです!」

トワが割り箸を割り始める。

そこへ○○○がやってきた。

○○○
「あ!わたあめですか?」

ナギ
「どうした。急いでるみたいだが」

○○○
「あ…。あの、シンさん見ませんでしたか?」

トワ
「部屋にいると思いますよ」

ハヤテ
「今から作るんだ。わたあめ食ってかないか?」

○○○はぶんぶんと首をふった。

○○○
「昨日沢山食べました!シンさんったら、わたあめ屋さんのおじさんと仲良くなっちゃって…」

ハヤテ
「!」

○○○
「ずっとわたあめ出来上がるまで見てるんですよ!あんなに熱心なシンさんを見たの、初めてです」

トワ
「へ、へえ…」

ナギ
「そうか…」

○○○
「よっぽど気に入ったみたいで…。あ!お部屋、行ってみます!」

○○○は皆に手を振ると、船底へと向かっていった。



一同は顔を見合わせ、大きな声で笑った。



その日はたくさんのわたあめが作られ、昼食後皆に振舞われたのだとか。



シリウス号の、夏のある日のお話・・・


end.

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