ナギ
□What will you do?
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ボーイ
「失礼します」
バスローブを羽織ったナギは、そのボーイを見送った。
もう朝日は昇りきり、部屋の中を明るく照らし出している。
焼きたてのパンの香りが部屋中に広がっていた。
これもリュウガの指示だろうか。
こういった事が自然に出来る男、というのを改めて理解した。
きっとこれは、朝食は作りに船に来なくて良い、という事でもあるのだろう。
ゆっくりと朝食を取るよう、船長から言われているようだと思った。
流石に朝食にバースデーケーキが無かった事には安堵すると、ナギはそのままもうひとつの部屋へ向かう。
カチャ
大きな扉は軽い力で開いた。
まだカーテンを開けていないため、隙間から差す光だけがやんわりと部屋の中を照らしている。
その、ベッドの上。
○○○はまだ夢の中にいる。
ゆっくりと、ベッドを揺らさないように腰を下ろした。
少し口を開けて眠る様は、起きて動いているときよりも少し幼く見える。
ナギはふと、昨夜○○○が言った言葉を思い出していた。
○○○
『生まれてきてくれて、ありがとう』
望まれなかったかもしれない自分に向けられた言葉。
○○○という存在が、どれだけ自分の中で大きくなっているか。
きっと○○○が考える以上だという事を、分かってはいないだろう。
普通の家に生まれ。
普通の家族の中で育ち。
普通に愛することを覚えた○○○。
その真っ直ぐに向けられた思いが、どれだけ自分を支えた事か。
本当は、プレゼントに揃いのアクセサリーを考えなくも無かった。もちろん指輪なども。
でも、ナギはまだ○○○の家族に会ってはいない。
海賊で。
身寄りが無い。
そんな自分を、果たして○○○の家族は受け入れてくれるのだろうか。
○○○のことだから、そのまま家を飛び出して着いて来る、なんて事もしかねない。
ナギはふ、と溜息を付いた。
そんなことはさせられない。
一人のキツさは、自分が一番良く知っている。
○○○に家族を捨てさせるわけには行かないのだ。
ナギ
(近いうち、船長に…)
ナギはそっと、○○○の頭を撫でる。
はらはらと髪の毛が、ナギの手に馴染んだ。
○○○
「ん…」
ナギ
「…おい、そろそろ起きろ」
○○○
「ナギ…?」
ナギ
「飯、もう来てるぞ」
○○○
「!…もう朝?ナギ、船に…」
○○○は慌てて体を起こした。
ナギ
「今日は戻らなくて良いらしい」
○○○
「そ、なの…?」
ナギ
「ああ」
ナギは笑って、ベッドから立ち上がる。
ナギ
「さっさと何か着ろ。エロくてかなわねぇ」
○○○
「エロ…!?」
はらりと布団が○○○の肌を滑り落ちていた。
もちろん、あのまま眠ってしまったのだから、裸な訳で…
ナギはくっくっと笑いながら、もうひとつの部屋へと行ってしまった。
ふわり、としたパンの香りが○○○の所まで届く。
○○○は慌てて、ベッドサイドに置いてあったバスローブを羽織ると、ナギの後を追った。
○○○
「わ、あ!」
窓際に置かれたテーブルの上には、たくさんの美しい皿と食べ物が。
ナギは水をコクコクと飲んでいた。
窓の向こうには、広がるアンティークな町並みと、海。
春のやわらかい緑の木々が、その町並みに色を添えている。
コト、とナギはそのコップをテーブルに置いた。
○○○
「ね、ナギ」
ナギ
「ん?」
○○○
「…誕生日、おめでとう」
ちゅ、と触れるだけのキスを交わす。
願わずにはいられない。
あなたの、幸せな未来を。
少し開けられた窓からふわりと、花の香りが二人の下へと届いていた。
end.
後日談、という感じで。
おまけ→