ハヤテ

□Before…
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シン
「何ですか、この猿は」

ハヤテ
「ああ!?」

そんな二人の様子を見て、リュウガは笑った。



天気も良い、航海日和のこの日。

昼には出航しようと、シンは準備を始めていた。

リュウガが補助員を探してくる、というのは知っていた。

先に着いた補助員は、いずれも船乗りで、すぐさまシンの指示に従い動いている。

しかし。

リュウガが最後に連れて来たこの男。

着古して擦り切れた洋服に、汚れた顔。

腰に下げた二本の剣らしいもの。

らしいもの、とは、それは鞘などではなく、ぼろぼろの布で巻かれていただけだったからだ。

あからさまに船乗りには見えない。


リュウガ
「人手は多いほうがいいだろ?」

シン
「そうですが…」

リュウガ
「いつまでも俺がマストいじってたら、格好つかねぇしな」

シン
「…」

じろ、とシンはハヤテを睨む様に見つめた。

ハヤテ
「…んだよ」

シン
「お前、船乗りか?」

愚問だが一応聞いてみる。

ハヤテ
「違う!剣士だ!!」

シン
「剣士…?」

シンは溜息をつくようにして笑った。

シン
「…船長。船の知識が無い物を乗せるなんて、俺は反対です」

リュウガ
「…ナギの時はんなこと言わなかったな」

シン
「それで懲りたんですよ…」

リュウガ
「今じゃ立派な船員だぞ?」

シン
「覚えがいいのと…料理、という特技があったからです。こいつには何もない」

ハヤテ
「何だと!」

シン
「棒っきれ振り回すんなら猿でも出来る」

ハヤテ
「うるせえ!!」

ハヤテはそのままシンののど元を掴むと、殴りかかった。



リュウガ
「おうおう。程ほどにな〜」

ドタンバタンと転がるようにして取っ組み合っている二人を、リュウガは楽しそうに見ていた。

ソウシ
「あれ、なんだか騒がしいけど…」

島での買い物を終えたソウシが、跳板の上から声を掛けてきた。

ソウシ
「…珍しいね。シンが取っ組み合いするなんて」

リュウガ
「そうだな。結構やるなぁ」

ソウシ
「うーん。そろそろ、止めないとあれかな」

ソウシは持っていた荷物を床に置くと、二人に近づいた。

シン
「っの、ヤロ」

ハヤテ
「くしょ…」

ふらふらになりながらまだ向かい合う二人に。

ソウシ
「はい、そこまで」

シン
「うぁっ」

ハヤテ
「っぐ!」


二人ともが腕を押さえながら、膝を着いた。

ソウシが二人の肩の関節を外したのだ。

ソウシ
「もう喧嘩しない?」

にっこりと笑うソウシに、二人は青ざめて頷いた。

その様子ににっこりと笑うと、ソウシは二人の腕を治した。

シン
「…ドクター。使い物にならなくなったらどうするんですか」

ソウシ
「そんなヘマはしないよ」

ソウシの笑顔に、シンは大きな溜息を付く。

リュウガ
「おう、なんで剣使わなかった?」

リュウガは腕を擦っているハヤテに向かって話しかけていた。

ハヤテ
「…丸腰、だから」

シン
「!」

リュウガ
「…、ハハハ!悪いやつじゃねぇよ、シン」

シン
「もう、いいです。その代わり俺は面倒をみませんからね!」

リュウガ
「あんがとよ」

ソウシ
「ところで…?」

リュウガ
「ああ、こいつは新入りだ。ハヤテっていう」

ハヤテ
「ども…」

ソウシ
「私はソウシ。この船の船医だよ。よろしくね」

リュウガ
「取り合えず、船の案内と…その前に風呂だな。服も用意してやれ」

ソウシ
「その前に、治療かな。シンもおいで」

シン
「俺は後でいいです」

ソウシ
「そう?じゃあ、ハヤテから。ついておいで」

ハヤテは少しためらうようにして、リュウガに一礼をするとソウシについて船室へ向かった。


リュウガ
「どうだった、新人のパンチは」

シン
「力仕事なら、やれるんじゃないですか」

リュウガ
「ふっ。まあよろしく頼む」

リュウガはひらりと手を振ると、船長室へと向かった。

シンはそのまま、近くにある樽に腰掛ける。

シン
「って…」

口元の血を、腕で拭った。

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