ハヤテ
□vanilla
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俺は去年より、どのくらい強くなったんだろう。
ハヤテが空を見上げると、キラリ、と一筋の流れ星が流れる。
丁度この時期、流星群が来るのだ。
数日前がピークだったらしいが、時折キラリ、とその名残が空を翔る。
甲板ではワイワイと、宴が続いていた。
○○○
「ハヤテ、どうしたの?」
一人船首にいたハヤテに、○○○が小走りに寄ってきた。
ハヤテ
「ん、いや…。別に」
○○○
「ふうん」
その返事を、気にしているのか、いないのか。
○○○もハヤテに倣って、船の縁から海と空を眺める。
時折キラリと光る星に、きゃあ、とか、わあ、とか声を上げて何かを願い始めた。
俺は去年より、どのくらい強くなったんだろう。
去年もそんな事を思っていた。
でも、それだけだった気がする。
今は。
ハヤテ
「ん…なんか、甘い匂いすんな」
何となく香りに誘われて、○○○に顔を近づける。
○○○は少し頬を染め、顔を逸らした。
逆にこっちがドキッとしちまうだろうが。
○○○
「バ、バニラビーンズかな。さっきまでケーキ作ってたから」
ハヤテ
「お!」
○○○
「今ちょっと冷やしてるの。楽しみにしててね」
ハヤテ
「おう」
ふふ、と笑うと○○○はまた空を見上げた。
その横顔を見つめながら思う。
○○○が、来てからだろう。
誰かの誕生日に開かれる宴が、こんなに華やかになったのは。
いままでも誕生日に宴は行われていた。
だがそれは宴をする口実だっただけだ。
こうして、誕生日にケーキなど。
生まれた事を祝うという…ある種当たり前の感覚は、シリウスには無かった。
それぞれがワケアリの集まりだ。
お互いの過去をじっくり聞いたことは無いが、祝うほどの事でもない。そんな感じだった様に思う。
隣にいる○○○はまた、手を握ると流れてゆく星に祈った。
その自分よりも小さな手。その体。
どこにそんな、人を変える力があるのだろう。
伏せられたまつげが、結構長いな、とか。
その柔らかそうな頬に、触れてみたいとか。
思わず抱きしめてしまいたくなるのは、どうしてなんだろう。
ハヤテ
「…何そんなに願ってんだよ」
○○○
「ん…えっとね。内緒」
ハヤテ
「内緒?」
○○○
「恥ずかしいから!」
ハヤテ
「何だよそれ」
はは、と笑ってハヤテが空を見上げると、またキラリと星が流れる。
ここぞとばかりに、これ見よがしにハヤテも祈ってみせた。
ハヤテ
「…気になるか?」
片目を開け、○○○の方を見る。
○○○
「気に、なるけど…」
ハヤテ
「つまり、こういうこと」
ちゅ。
ハヤテの手が首筋に回り、そのまま○○○は顔を引き寄せられた。
ハヤテ
「俺、やっぱお前の事マジ好き」
○○○
「!!」
その真直ぐな目が、○○○を見つめていた。
○○○
「ハヤ…」
ピュイ、と甲高い口笛の音が響く。
リュウガ
「いよっ、ご両人!」
トワ
「お熱いですね!」
少し離れた場所から、皆の声が聞こえる。
ハヤテ
「お、前ら、見てたのかよ!!」
ハヤテは慌てて皆のところへ向かう。
シン
「なんだ、見せ付けてたんじゃなかったのか」
ハヤテ
「んな訳ねーだろ!」
リュウガ
「まあまあ、照れるな照れるな」
ソウシ
「そうだよ。ほら」
半ばリュウガに強引にコップを渡され、それにソウシが波々と酒を注いでいく。
酒を飲みながら、騒いでいるハヤテを○○○は見つめていた。
○○○
(ふふ、楽しそう…)
○○○はそっと、自分の唇に触れる。
なんだかハヤテは最近、どんどん大人になっていく気がする。
出会った頃は、意地っ張りで、結構頑固で、女なんてってずっと言ってて…
ハヤテ
『オレは自分の思いより、○○○の笑顔のほうが大切だって…よくわかったよ』
ハヤテが、ヤマトでの夏祭りの夜言ってくれた言葉。
思い出すだけで、胸の辺りが温かくなるような、切なくなるような…
○○○
(なんか、一人だけ格好良くなっちゃって、ズルい…)
ナギ
「おい、○○○」
○○○
「あ、はい!」
ナギが○○○の方へ歩いてきた。
ナギ
「そろそろケーキ出さねぇと、食って貰えなくなるぞ」
○○○
「え?あ…!」
ハヤテを見ると、どんどん酒を飲まされているらしく、少しフラフラし始めていた。
○○○
「み、皆さーん!まだケーキがありますから!!」
お酒は程ほどに、と声を上げながら○○○は皆の所へと走ってゆく。
やれやれといった様子で、ナギは笑う。
少しして出されたケーキは、ハヤテの分だけ別に作られていた。
ハヤテ
「やめろ、って!これは俺のだ!!」
リュウガ
「○○○だけじゃなく、ケーキも独り占めか」
ハヤテ
「皆の分はあるでしょうが!!」
ソウシ
「だってハヤテのだけ、○○○ちゃんの手作りなんだよね」
シン
「ナギのケーキが美味いのは知っている。だが、○○○のは知らないからな」
トワ
「味見くらいさせてください〜!」
ハヤテ
「だ、誰がやるかー!!」
甲板を逃げ回りながら、それでも嬉しそうにケーキを頬張ってゆく。
嬉しくて、楽しくて、○○○も大きな声で笑っていた。
星降る空の下、皆の笑い声が響く。
○○○
(お星様、お願い…)
ハヤテが、幸せでありますように。
それはきっと
皆の
願い
end.
*****
おまけ
その夜、部屋にて。
ハヤテ
「ん…」
○○○
「…?」
ベッドに横になり、ハヤテから後ろから抱きしめられ。
ハヤテ
「やっぱ、ケーキの匂いだな…」
○○○
「…?あ、さっき言ってた」
ハヤテ
「食っちまいてぇ…」
○○○
「!!」
ちゅ、と首筋にハヤテの唇が触れる。
朝焼けには、まだもう少し…
end.