title 夢話

□止
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図書館を後にしてからも私の心臓ははちきれんばかりに高鳴っている。

なんてったって、隣にこんなかっこいい男の人を連れて歩くのは初めてだ。



third



「俺は高橋涼介。あなたは…」

『あ。篠原千夏です。』

「千夏…か。」良い名前だ。なんて言われて、どうしていいか分からなくなる。

『涼介さん…でいいですか?』

「好きに呼んでもらって構わない。」

微笑む彼の姿に私はだいぶ緊張もとけて、会話も弾んだ。


涼介さんが紹介してくれたお店は意外と図書館から近くて
こんな所にお店が!とびっくりしてしまった。

一見、高そうなイタリアン風のお店だが、値段はリーズナブルだし、量も程よいくらいで私は大満足だ。

ここは、パスタがおいしいから、と涼介さんに太鼓判をもらったスパゲティはとてもおいしかった。

「群馬大で医学を専門に学んでいて…」

あぁ。だから医学系のコーナーに。

『私は大学で日本史を専攻しているんですけど。医学なんかとは話になりませんよね。』

「そんなことは…。俺も日本史好きだし…。」
フッと柔らかく微笑む彼に目を奪われる。涼介さんの笑い方、好きだなぁ…

涼介さんはきっと私に話をあわせてくれているだけで、
別に私の事を好きなわけでもなんでもなくて、
ただ微笑んでみただけ。
それだけなのに。
心臓がこんなにも高鳴るのはなぜ?


「…すみません。俺、これから用があるので。」

どのくらい話しただろうか…
涼介さんがそう言って時計を見る。

『あっ。すみません!私話し込んじゃって!』
「いや、誘ったのは俺だし。何より千夏さんと話せて楽しかった。」

『…私も楽しかったです。』
恥ずかしい事平気で言うなぁ…。

二人して会計にたつ。
金額を言われ、お金を出そうとすると
「俺が払うから。」
そう言って止められる。

『いや!悪いですよ!』
「お礼にって、言っただろ??」

『でも…!!』

ほぼ初対面でしかも、今日初めていっしょに食事をした人におごってもらうのは申し訳ない。
なのに…

涼介さんは二人分の料理のお金をおいて、手慣れたように会計をすまし、店をでてしまった。

後を追って私も店を出る。

外はまだ朝の残暑がうっすらと感じとれる。

「それじゃあ。俺、こっちなんで。帰り道、わかる?」

『はい…。大丈夫です。』

「何だか、ばたついてしまって申し訳ないな。これ、本当に助かった。じゃあ、気をつけて。」

あぁ。行ってしまう。なにか…お礼を…

『あの!!今度は私がお店紹介するんでまた図書館、きてくださいね!!!!』


よっぽど声が大きかったのだろう。
道行く人が振り返っている。
涼介さんも驚いているようだ。

「また今度。店、期待してる。」


そう、“あの笑顔”つきで返してくれた。



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