拍手連載

□あぁ、夢であれ
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*2*


初対面の人に好印象を持たせるには笑顔で話すことが大切だ、とどこぞのテレビ番組で言っていた事を思い出した。
まぁこれから一年間は仲良くしていかなきゃだし、隣の席になったのも何かの運。
ここで挨拶の一つしないで後が気まずくなったりしたら嫌だ。
よし。と心を決めて口を開いた。

『あの!初めまして!』
そう言うと姿勢はそのまま、少しだけ顔と目がこちらを向いた。

『隣同士になったのも何かの縁だし。これからよろしくね!』
なるべく笑顔を心がけてそう伝えた。…のだが。

「……。」

その男子生徒は無言のまま視線を前に戻したのであった。
あれ??この人、私の声聞こえてた??
それともわざとか…??

『あの……』と、また話しかけようとした時
「拓海ー!!こっちこいよ!」
と数名の男子生徒によばれ、席をたった。

な!?なに!?あいつ!!感じ悪!!!
第一印象とはやはり大切である。


「あー藤原ね。」
『沙雪、知ってんの??』
「まぁ…なんとなくはね…??」
『どんな人なの??藤原くんて。』
「女子には結構人気高いのよ。かっこいいし、運動もできる方だし。」
『あんなムッツリしたシカトくんが!?』
「シカトくんて……大丈夫よ。別にあんただけにしかとしてるわけじゃないから」
『……というと??』
「藤原は女子とぜんぜん話さないのよ。というか、女子と話してるとこをほとんど見ない」
『…何それ。』
「クールっていうか、冷徹っていうか…そこがまた女子たちのツボみたいだけどね。」

クール…にしてもシカトはないだろ!シカトは!!
もう話しかけてやらん!
なぜ上から目線なのかは別として…
こんな決意を一度はしたものの、それはいとも簡単に崩れさってしまう事になる―――――


新クラスになり、はや数週間。
普通に授業も行われ、皆もだいぶ落ち着いてきた。
友達の輪が広がる、というのだろうか。クラスには日に日に笑い声が増えていった。かく言う私も今現在、放課後の大掃除の真っ最中だが、おしゃべりばかりで作業がちっとも進まない。
何より友達の話に笑いながらもちらりと視界に入る藤原くんの姿はこの間と変わることのないポーカーフェイスというやつで、こやつ笑った事あんのか。とまで考えてしまう。


「おい。掃除に何分かかってんだー?」
担任の声で我に返り、急いでほうきを持つ手を動かした。
「ったく。お前ら来週も掃除当番したいのか?…あ藤原、紙ゴミ忘れて行きやがった…」

来週も掃除当番…それは最悪だな…それだけは避けたいな……ていうか担任の視線が痛いんですけどなんですか。何かしましたか私。何で私だけ…「よし。お前、これ持ってけ。」

いきなり私の肩におかれた担任の手。その反対の手には大量の紙ゴミ。
『私ですか!?』
「お前が一番近くにいたからな。」
『んな理不尽な!!』


*



はい。駆り出されました。
ちょっと待ってよ。
さっき担任「藤原、紙ゴミ忘れて行きやがった」って言ってたよね。
つまり向こうには燃えるゴミを持った藤原くんがいるわけだ。はははー別に私は関係ないけどねはははー。とか考えていた矢先――――

いました。彼。藤原くん。しかもしゃがみこんでます。
なんだ?頭痛いのか??めっちゃ押さえてる。
やはりここは“クラスメート”として話しかけるべき……??この状況で流石にシカトはしないだろうし。何より私はこんな状態の人の横を素通りできる程非道い人間ではない…はずだ…!

『あのー藤原くん…??大丈夫…??』
少し上を向いた藤原くん。あ、結構大丈夫そう?

『頭痛いの??たてる?』
無意識に手を差し出す。知らなかった。私がこんなに優しいなんて!!

「…うざ…」


………は?今なんて

「いいから。そういうの。」


そう言うと私の手を邪魔そうに払ってさっさとどこかに行ってしまいました。





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