short イニD夢話

□出会えて良かった
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神様がもし存在するとしたらとんでもなく意地悪で、ひどい。

最初、あなたが引越すということを知った時
柄にもなくそんなことを思った。

「どうした、真琴。」

『…へ…!?』

「気分でも悪いのか?」

『あ、いや、全然大丈夫!!』

「ったりめーだろ、アニキ。真琴みたいな大食いが体調崩したりするわけねぇって。」

『啓介も風邪とか全然ひかないよね。あ、バカは風邪ひかないって言うもんね!』

「お前な…もういっぺん言ってみろ」

「…啓介。」

「んだよ、わかってるって!」

家が近所で小さい頃からずっと一緒だった涼介兄ちゃんと啓介。
私の隣にはいつも二人がいた。
…それなのに。

「もうすぐで飛行機でるからな。ちょっと時間確認してくるから、啓介は先に搭乗口まで行っといてくれ。」

「おう。」

「真琴、いつでも連絡くれよ。怪我や病気には気をつけて。またな。」

『涼介兄ちゃん…今までありがとう!絶対また会おうね!』

涼介兄ちゃんに頭をなでられながら
泣いてしまわないように笑顔をキープ。


二人から引っ越すと告げられたのが一か月前。
いきなりのことでほんと、冗談かと思った。

『あ〜あ。涼介兄ちゃん行っちゃった。』

「…よく泣かなかったな。」

『啓介、まだいたの!?』

「お前さっきからいい加減にしろよ…」

『やだなぁ冗談冗談!』

本当に。
冗談だったらよかったのに。
神様は…ひどい。

「やべ、俺もそろそろ行くわ。」

啓介。
わたし、ずっと啓介のこと好きなんだよ。

『はいはい。啓介も気をつけてね。』

「お前みたいなうるさいのがいなくなって俺もやっと落ち着けるぜ。」

『私がいてもいなくても啓介は落ち着きなんてなかったでしょ!』

もう、こんな風にふざけあう事も出来ないのかな。
だめだ。今日は絶対泣かないって決めたんだから。

『またね、啓介!』
「真琴も…まぁ。ほどほどに頑張れよ。」
『ほどほどにって何さ!?』

ははは、と楽しそうに笑う啓介の顔がぼやけて見える。

ごめんね、啓介。
私は最後まで素直になれなかった。
…この想いをあなたに伝えることすらできないただの弱虫。

「じゃ、またな。」
『うん。ばいばい。』


ゆっくりと啓介が背中を向ける。

あぁ。もうだめだ。
歩き出した彼の足はもちろん止まることはなく。
人ごみに紛れていって…。

私はとっさに手で顔を覆ってしまった。
下唇を強く噛み締める。

『…嫌だ。行かないで…』

行かないで…。啓介…。

また私の名前を呼んでよ。
いつもみたいに気さくに話しかけてきてよ。

どうしたって私は好きなのだ。

『…好きなの…啓介のこと…』








「真琴」







『…っ』


「絶対またお前を迎えに来る。」






『……け…いすけ…』

耳元で聞こえた彼の声は今まで聞いたことのない、優しい声だった。

きっと私は笑顔で彼らが乗る飛行機を見送ることができるだろう。


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