short イニD夢話

□建て前
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昼休み
教室にて

たこさんウインナーをつつきながら
たった今、目の前の友人から発せられた言葉に唖然となった。

『…いま…なんて?』

「だーかーらっ!…私ね、藤原くんのこと好きなの…」

なんと
まぁ
いやはや………

『………まっじでっ!?』

「まじまじ。真琴はさ、藤原くんと幼なじみだし、仲いいじゃん?だから協力してよー」

顔の前で手を合わせられ、まるで自分が神であるかのように拝まれる。

『…え。ちょっと待って。あんなののどこが良いの!?』

これは率直な感想。
確かに拓海とは幼なじみでお互いのことをよく知る仲だが…

いっつもボーッとしてて
やる気なさげで
ほぼ無表情で…

「あんなのって…あんたねー、藤原くん女子の間じゃ結構人気なんだよ!?」

『もはや…最近の女の子の恋愛事情がよく分からん…』


友達に面と向かって拓海の事が好きだ、と宣言されたのは初めてでなんだかとても不思議な気分だ。

なんでも、女子達の間では拓海は優しく、クールで大人っぽいらしい………
………ぷっ

『あっははは!拓海がクール!大人っぽい!!そりゃあイケメンだわ!』

「本人目の前にしてなに人のことバカにしてんだよ…」

『…あっ。おかえり!ノート提出ご苦労さま!』

「真琴も働け…!」

『あたたたハゲる。ハゲるから髪はやめて…!!』

拓海と係りが同じである私は
課題だったノートを提出し終え、どちらからともなく鞄を手に取り教室をでた。

『あのさー拓海はさーどんな女の子が好きなのー?』
「…お前いきなり何言い出すんだよ!?」

『んー?ちょっと知りたいなぁと思って。ねぇどんな子?』

これはもちろん友達に聞いてみてほしいと頼まれた質問。

「…わかんねぇよ。」
『えー!いやいや、あるでしょ。好きなタイプくらい!』

「…だからよくわかんねぇって。……俺が好きになった奴がタイプだろ。」

『いや、そうだけどさ!!』

やっぱり恋愛に疎い拓海に聞いても意味ないか。
自分の事なのにいまいちわかって無さそうだし。

帰り道
隣にはいつものように拓海がいて
私の歩幅に合わせて歩いてくれる。
確かに。
こういう所は女子からしたら嬉しい…かな。

「やべっ、真琴!!」

そう呼ばれたのと同時にぐいっと手を引っ張られる。

『なっ…!?に…!?』

「バス、もうきてる」
走るぞ!

そう短く言って
手はしっかりと掴んだまま走り出す。

『えっ!?きつ…!!』

拓海に掴まれている手の箇所がやたらと熱い気がする。
やっぱり男の子だなぁ…と思うには十分な、大きくてたくましい拓海の手。

バスには滑り込みセーフで飛び乗った。

掴まれていた手もほどかれ、少し安堵。

全速力ダッシュしたはずなのになぜお前は息が乱れていない!
変な所に悪態をつきながら二人がけの席に隣り合って座る。

意地でも窓側に座りたかった…というのはここだけの秘密。
ようやく落ち着いてきて窓を開けた。

『涼しいよー拓海ー』

「そりゃそうだろ。」

『拓海にも風来るー?』

「お前の体がでかくてあんまりこな…っ!!いって!!」

冗談だろ?
何て言いながら頭さすってるけど、
今の言葉は失礼でしょっ!!
いじけたように外へ顔を向けた。

「…いじけんなよ。」
バレてる…

「なぁ…真琴…」
『……』

「真琴…」
『……いじけてなんかない!…から…』
ほっといて、と言おうとして止めた。

コツンと肩に心地よい重さがのしかかったから。

「…肩…かりる…」

朝の配達もあり、今になって睡魔が襲ってきたらしい。

不意に昼の友達の言葉が思い出された。

なにいまさら意識してんの。私。バカみたい。

そう思ったのはきっと建て前だ。




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(ねみぃ……)
(髪がくすぐったい…)



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