私小説

□双子のヘンゼルとグレーテル
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俺たち、双子の兄妹が部屋の方付けをしている途中で、妹の海鈴が四角い形をした何かを見つけた。

海鈴は手に何かを持って近づいてくる。
「ねぇ、海音。懐かしいものがでてきたよ!」
海鈴が叫ぶと、やる気のなさそうな声で、俺は「何?」と、小さく言った。「小さい頃に、2人でよく読んだ、ヘンゼルとグレーテルの絵本」
のろのろと歩く俺をよそに、海鈴は鬱陶しいと思ってしまうほどはしゃいでいた。
思い出の品が出てきた嬉しさだろうな……俺もはしゃぐと思うな。
そう、考えていたとき、隣で絵本を広げている海鈴の予想外な発言を耳にした。
「私ね、ヘンゼルとグレーテルって馬鹿だと思うの!」
「どこが?」
内心驚きつつも、海鈴に俺からの質問を浴びせた。
「魔女の思惑が、ぜんぜん分かってないんだもん。普通に『お菓子の家』があったら怪しいと思わない?」
「まぁ、そうだよな……」
俺は苦笑いで答えつつも、内心『絵本の世界だぞ』っと、つっこんでる最中に閃いた。
「馬鹿とか言ってるけど、もし俺たちが同じような境遇にあったらどうする?」
脳内に沢山の「?」を浮かべていそうな表情をする海鈴が「例えば?」と逆に問い返してきた。
「母さんが、俺たちを捨てるとか……まぁ、ないだろうけどな」
「お母さんが……?」
答えた海鈴の顔は、本気の顔をしていた。
「冗談だからな」
「え、そうなの? 本気にしたじゃん」
やっぱり、海鈴は本気にしていた。
俺は一言思ったーー笑えない冗談、だと。
そんな、時リズミカルな足音が階段を上っているのが聞こえていた。
それから、俺たちの部屋の前で止まった。微かに、聞こえてくる鼻歌から正体が母さんだときずいた。
「2人とも、お昼だから降りてきなさいね」
『ハーイ!』と返事をしながら手を挙げた。
中学生とは思いもしないような、元気すぎる返事をしたせいか「本当、いつまでたっても元気なんだから……」
と、母さんは心から心配していた。
「まぁ、とにかく降りてきなさいね」それだけ言うと、母さんは一階のキッチンの方向へ歩きだした。
「行くぞ」
その一言を海鈴に告げて、一階へ向かった。すると、とても美味しそうな匂いが部屋いっぱいに広がっていた。
「ん? この匂いは……味噌汁!」
味噌汁好きの海鈴が、いち早く気付き、すぐに母さんの元へ向かい「今日は何の具なの!?」と、しつこく聞き続けていた。
「ちょっと、海鈴しつこいわよ。おとなしく座ってなさい!」
この一言が、海鈴には効いたようで、落ち込んでしまった。
海鈴すぐに、いつも座っている席へと座り、俺も隣の席に座った。

「……」
海鈴が何かぶつぶつと言っているが、なにを言っているかまでは、俺も分からなかった。
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