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□雨よ止まないで
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目の前には、机に顔を伏せて寝ている女の子が居る。
長い睫毛は教室の電気によって影をつくり、寝息が微かに聞こえる。

外は雨。
雨が止むのを待っているうちに寝てしまったのか、はたまた部活中の彼氏を待っていたら寝てしまったのか。

クラスの皆はとっくに帰っていて。
教室には僕と彼女だけ。





寝ている原因を知らない僕は、むやみに彼女を起こせなかった。









彼女は入学したときから同じクラスで、今年二年目。
一年のときから独特な雰囲気を醸し出している人だった。
大人びた顔立ちから先輩に好かれ、少し無愛想なのかクールなのか。
女子の友達も男子の友達も多くない人。

いつも授業中に寝ているイメージしか無くて、考えていみればこの二年間彼女と言葉を交わしたのは一度か二度くらい。









「起こしづらいなぁ。」

教室の時計を見上げると、短い針は五と六の間にある。
これはもう起こさなきゃ、彼女の家が遠かったら危ないだろうし。



だけど、彼女はあまりにも熟睡しているみたいで。
僕が彼女に気づかずに鼻唄混じりで教室に入ったって全く起きなかった。











「雨が止んだら、起こそうかな。」


外は雨。
だけど雲は濃い灰色から薄く色が抜け始めていて。
雨の強さも弱くなっていた。

この調子ならあと少しで止むかもしれない。
そう思った矢先に、彼女が起きそうな仕草を見せた。



「ん、っ...」

「あ、起き...てない。」

鼻にかかった声が聞こえても、彼女は起きなかった。
眠りは浅いのか、綺麗な長い黒髪を耳にかけていた。


そのとき見えた横顔に一瞬心が揺れた。
全体的に整ったパーツ、目は丁度良い大きさだし、鼻もスッとしている。




なにより、一瞬の寝顔が可愛すぎて驚いた。

クールな彼女もそんな顔するんだ...、ってくらいに。



「止むまで、だから。」

自分に言い訳を言いながら、彼女の座る席の隣にこっそり座った。

もう一度彼女を横目で盗み見れば、耳にかけていた黒髪が小さな束になって頬に落ちていた。
綺麗な顔をしているからなのか、どこか絵になる。
綺麗な絵画になりそう。



「なんか僕、ストーカーみたい。」


いつの間にか盗み見なんてレベルじゃなくなっていて、凝視していた。






いやいや、ストーカーじゃないから、うん。雨が止むのを待っているだけだし。

見苦しい言い訳を考えていた自分に苦笑いした。







雨よ止まないで

(ずっと二人で居たい。)

(なんてね。)






end

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