short2

□降りしきる夜雨
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『別れよう。』



彼女の言葉が雨音に混じりながら頭を駆け回る。



ついさっき、俺はフラれた。

二年間愛し続けた彼女。
いつもの笑顔を一切見せず、冷めた顔で俺の目を見つめて。
酷く胸に刺さる言葉を放った。

彼女の口から出て来る

『好き』『愛してる』

その言葉を全身で受け止めてきた。


『別れよう』

なんて言葉を、受け止める準備をしていなかった俺は。
声を出す、という機能があるのすら忘れ。
ただ固まるしかできなかった。








「っ、...んだよ。」


彼女の家を出る時、グレーのシンプルな傘を差し出してくれた。
そのとき初めて外は雨だとわかった。

『返さなくていいから。』

これを言われて現実を実感。
傘なんか受け取らずに飛び出していた。


フードは雨水を含み俺の首を痛め、頬をなぞる水滴を拭う気にもなれない。
足首からふくらはぎにかけてジーンズは重たくなり、歩む速度が落ちる。








『もう、良い時期よ。』


別れの時期、だと言った。
何が別れの時期なのか、思考能力が停止した俺にはわからなかった。

今冷静になって考えると、わかる気がする。



彼女も今年二十八歳。
きっといろいろな事を考えていたんだろう。
結婚を考える年齢だろうし、そう考えた時に俺はまず弾かれるだろう。

自分で言うのもいい気はしないが、彼女を養う金はあるほうだ。
何度か彼女の仕事は必要無いんじゃないかとも考えた。

ただ一つどうしても引っ掛かるのが俺の『職業』
切っても切りきれないだろ。





「諦めろってか。」

彼女を諦める、それしか成す術は無いんだろうな。


この先、彼女を十分に幸せにできる男が現れて。
結婚して子供が生まれて。










そんな幸せな未来を
俺が邪魔する資格は無い。



降りしきる夜雨


(なぁ、雨)

(俺は戻らなくて)
(正解だった、よな。)





end

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