銀→青(短)
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「な、何で翼がここにって……寝て、る……?」
「あ、ほんとだ……っていうか……この寮朝より綺麗じゃない?」
「……あ……」
翼の様子とこの寮の様子を照らし合わせると、出て来る答えはたった一つ。
「掃除、してくれたのか……」
「だろうね。やり過ぎちゃって疲れたんだよ」
掃除をしてくれたことに感謝の念を抱かないわけがない二人。しかし、それだけではない。
「僕たちに分からないようにするつもりだったんだろうね」
その翼らしい謙虚さが、どうして二人の心を擽るのだった。
「……雪男……俺、ちょっと疲れたから寝るわ」
翼が自分の布団で寝ていることをこれ幸いに、燐は翼の隣で休憩しようとする。
しかし、あの男がそんなこと許すはずがない。
ガシッ
「何やってるの? 兄さんはご飯があるでしょ?」
雪男は、燐の肩から変な音がするぐらい燐を止める手に力を込める。
しかし、燐も負けてはいなかった。
「んなもん、今日は弁当だ! 弁当!! それかメフィストに頼んでウコバクを呼べぇ!」
「ウコバクは今、料理の修業をしにフェレス卿のとこにもいないだろ。しかも、そんなに大きな声を出したら……」
『ん……』
「「!!」」
噂をすればとはこのことか。翼は燐の声に反応すると、少し身じろぎをした。
しかし、それも一瞬。
『ん〜……zZZ……』
動きが止まれば翼は再び、夢の中に誘われたのであった。
「「……っ」」
しかし、困るのはこの二人。だが、いつまでもこうもしていられない。
今だドキドキ鳴る胸を抑えれば、雪男は静かに適切な判断を下したのであった。
「僕も今日は手伝うよ。兄さん、作ろう。三人前」
「! おうっ」
小さな声で返事をすれば、燐は翼の方を見る。そして幸せそうに眠る翼を見て、いつもの笑顔で言ったのだった。
「ありがとなっ、翼」
そしてその言葉に、雪男も続く。
「ありがとうございます。翼さん」
そして温かな眼差しを最後に翼に送り、二人はその部屋を後にしたのだった。