銀→青(短)
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カチャ
『失礼します。誰もいないで下さい』
何とも矛盾な挨拶をするのは、正十字学園の生徒ではない翼である。
午前を指す今はつまり、正十字学園の生徒はただ今授業中、だということだ。
そして翼はこの機会を狙って、たった今お邪魔した旧男子寮へと入ったのである。
『う、けほっ。やっぱり埃くさい……』
しかし、何故ぶつくさ言いながらもわざわざ侵入したのか。
それは、このような理由からである。
『絶対掃除が行き渡ってないと思ったんだ……。二人だけって言ってたし。
……よし! じゃぁ、やりますか!』
そう。男まみれの中で過ごしていた翼ならば、男の人がどれほど掃除をしないかということを知っている。
奥村兄弟も例外ではないと思った翼は、こっそり家政婦の任を請け負ったのだ。
バタバタバタ……
トントントン……
パシパシパシ……
塵の積もった廊下を拭けば雑巾は真っ黒になった。
布団を庭に乾すため何段もの階段を跨げば良い筋トレになった。
蜘蛛が巣くう天井を叩けば、それだけで見映えが良くなった。
翼は何十もの掃除を、一人で一気に行ったのだった。しかしそこまでしていると、いくら体力のある翼でも疲れを覚える。
バサッ
『あ〜、疲れた……ちょっと休憩……』
今まで日光を浴びていた布団を定位置に戻せば、翼はその上に寝転がるのだった。
しかし、それからすぐの時間が経った時――
「あ〜、今日も疲れたぁ〜!」
「ちょっと、せめて制服は部屋で脱いでよ」
燐と雪男が帰ってきたのだ。
ガチャ
何も知らない二人は、迷わず自分達の部屋へ入る。しかし、そこには……
「ぬおぉぉぉ――!!!?」
「! 翼さん!?」
そこ・燐のベッドの上には、既に先客がいたのだった。